その絶対条件として、私は初等部からずっと生徒会役員を務め続けている。御影と碧玉も補佐役として、支えてくれている。
私は完璧な道を歩んでいるのだ。
だからこそ、愛実のような存在は警戒しなければいけない。
あの子は、自分の望みを叶えるためなら、他の全てを犠牲にしても構わないと、悪意無く思っている。
そう。とても悪質なことに、悪い子ではないのだ。
だからこそタチが悪い。
悪意を以っての行動なら、いくらでも排除する術はある。でも、悪意無き悪意では、諭したとしても、彼女は理解しない。いや、できないのだ。
愛実は自分の考えが正論で、それ以外を受け入れるつもりはないのだから。
それでいて、自分にも他人にも興味がない。興味の矛先が向くのは、不可解な事件や事故で、それを脚色して、都市伝説にすることだけだった。
私だって、口喧嘩のようなものをするまで、一年以上かかった。彼女にとって、人間は自分と他人の集合体という認識しかない。例外として、家族は個々で認識しているようだが、クラスメイトや教師は他人という大きな集合体で括っている。
たぶん、愛実と知り合った頃の私も、彼女にとっては他人の集合体の一部だったのだろう。接触することが増えて、個々で認識しないと、面倒だと理解してくれたからこそ、私や御影、碧玉を個として認識してくれた。
さらに碧玉に関しては、彼女の愛称である『ベッキー』と呼ぶまでになっている。やはり、これもそう呼ぶまで一年以上かかっていたが。
そんな彼女が、初めて『他人』を連れてきた。
しっかり個として認識された男子生徒だ。
笹塚(ささづか)宝楽(たから)。
特別な何かがあるのかと、観察してみたけど、どこにでもいる平凡な一般人としか言いようのない生徒だった。それこそ、千人近くいる高等部の生徒に埋もれてしまうような存在というのが、私の認識だ。
実際に会話してみても、何かが特出した人間とは思えなかった。
でも、愛実は、彼の前では、まるでどこにでもいる女子高生のように、拗ねたり怒ったりして見せた。
そんな愛実は初めて見た。
だから、彼女にとって、宝楽君はとても特別な存在なのだろう。そう思った。
その宝楽君が、昨日、一人で生徒会室を訪ねてきた。
彼を見た瞬間、私は少し驚いた。彼の目には、以前には無かった覚悟の色のようなものが、宿っていたからだ。
応接用のソファーに座らせると、私も向かいに座った。
御影が紅茶を出すと、それを一口飲んでから、私を見つめてきた。一瞬の間を置いて、何かを決意する素振りを見せると、口を開いた。
「会長は、すでに愛実から聞いているかもしれないんですけど、『クラウさん』は、あいつが処理しました」
少し前から、愛実が広めた都市伝説がある。