『完璧を求めるクラウさん』という都市伝説だ。
内容は四月ごろから騒がれている連続猟奇殺人事件をベースにした悪趣味なものだ。愛実が作ったということは、『クラウさん』が学園の関係者である可能性は高いと思った。
あの子が都市伝説を作る条件は、自分と関わる可能性が高いことだ。だから、不可解な事故や事件を身近な人間に求めるのだ。身近な人間なら、自分が関われる確率が上がるから。
実際、愛実の作った都市伝説は、大抵その登場人物と愛実が顔見知り、もしくはこれから知り合うものばかりだった。
だから、愛実が猟奇殺人事件に目を付けた時は、嫌な予感がした。
学園から殺人鬼など出したくない。
本音を言うと、愛実が処理をすると言った時は、都合が良いとさえ思った。
愛実の持論で、都市伝説内で殺人やそれに類似する行為をした登場人物は、警察に捕まってはいけないというルールがある。愛実が処理をするということは、『クラウさん』が表舞台に出ることはないということだ。
学園関係者が警察に捕まるよりマシだと判断したことは、私も認める。
そして、愛実から『クラウさん』の正体と、すでに処理したことは聞いている。
猟奇殺人事件を起こした犯人は、高等部で教鞭を取っていた明留(あくる)鈴子(すずこ)教諭だった。現在、彼女は行方不明となっている。自宅にも何の手がかりもない状態で、謎の失踪事件として処理されていた。
「それで、会長が言ってたことですけど、俺、今回の件で決めました」
宝楽君の言葉に、私の思考は現実に引き戻された。
彼はティーカップを見つめていたが、不意に顔を上げてへらっと笑って見せた。
「会長や御影先輩、ベッキー先輩は心配してくれたので、一応、報告しようかと思いまして」
私は以前、宝楽君に愛実のそばにいるか離れるか、『クラウさん』の件が片付いたら選ぶように促していた。
愛実のそばにいることの危険性を知っていたから。
でも、目の前に座る宝楽君の瞳に覚悟の色が宿っていた理由は、もう聞かなくてもわかった。それでも、私は黙ったまま、彼に続けるように示した。
「俺は、このまま『CLF会』を続けます。愛実のそばにいるって決めました」
やはり予想通りの結論だ。
明るい茶色の猫っ毛を掻きながら、彼は話を続けた。
「えー、愛実から『クラウさん』の正体は聞いていると思うので、何をしたか説明しておきますね。明留が失踪した後、警察が捜査しても、部屋から何も見つからなかったのは、俺と愛実で、明留のコレクションを処分したからです」
私は思わず紅茶を吹き出しそうになった。
あのバカ! 平凡な子に、何てことをさせてんのよ! 誰もが自分と同じ感覚だと思ってんじゃないの!?
私の様子を見ていた宝楽君が、苦笑する気配がした。