小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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 確か、未だに失踪した子たちは見つかっていないはずだ。

「その『妖精事件』の舞台になった中学校出身なんですよ、宝楽君って。しかも、失踪した十六人の内、十人が宝楽君と顔見知り、もしくは友人だったそうです」

 私は唖然として碧玉を見返した。

 宝楽君の様子に、事件に巻き込まれた人特有の暗さは感じられなかった。でも、碧玉は何かが引っかかったからこそ、調べたのだろう。

「警察も、何も手がかりがなかったため、共通点である宝楽君が何か関わっているのではないかと疑ったそうなんですけど、すぐに疑いは晴れたそうです」

「アリバイがあったとか?」

「いいえ。警察関係者に顔見知りがいて、宝楽君を調べても無駄だと庇ってくれたそうです」

 それだけで、すぐ疑いが晴れるものなの?

 首を傾げた私に、碧玉が楽しそうに笑いながら言う。

「その警察関係者の人は、別の事件で宝楽君と知り合ってたそうです。今から四年前の『恐竜足跡事件』は知っていますか?」

「……それは、知らないわね」

 眉を寄せた私に、御影が苦笑して碧玉に言う。

「翡翠さんが、そんな大衆向けの低俗事件を知っているわけが無いでしょう」

 まあ、事件名からして、真面目な感じはしないけど……

 御影が、事件を知らない私のために説明してくれる。

「今から四年前、修学旅行で富士登山をしていた小学生の少年が、五合目で深い溝を発見したんです。その大きさから、上空でしか全容が確認できず、調べてみると、爬虫類の生物と思われる巨大な足跡だったそうです」

「……何、そのネッシーみたいな眉唾物な事件は?」

 UMAみたいなものなんだろうけど、都市伝説並みに怪しい。

「当初は、発見した少年のイタズラ説が浮上したんですが、その大きさと精巧さから、十二歳の子供には不可能であり、結局足跡の正体はわからず仕舞いとなっています」

「まさかとは思うけど、その当時十二歳の少年って……」

「宝楽君ですよ♪」

 答えたのは碧玉だった。

 さすがに私と御影は言葉を失った。御影も事件は知っていても、発見者の少年の名前までは知らなかったらしい。

 碧玉は満足したように腰に手をやって、嬉しそうに説明する。

「そんな感じで、宝楽君の周りではいつも不可解な事件が起こってるんです。宝楽君自身は平凡ですけど、その周りは非日常に溢れているんです。今回の猟奇殺人事件だってそうですよ。『クラウさん』の次の標的は、宝楽君の親友である嵯峨(さが)斎姫(いつき)ちゃんだったそうですから」

 そこまで聞けば、私も予想が付いた。

 もし愛実が宝楽君と行動を共にしていなくても、友人が猟奇殺人事件に巻き込まれれば、解決の糸口として、愛実を頼ることになった可能性は高い。

 何せ、愛実はクラスの自己紹介で、恒例となっている『不可解な事件、事故に遭遇したら、私に話に来なさい』宣言をしたはずだ。何の手がかりも無い宝楽君が、愛実を頼るのは予想できる。

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