ただひとつ。
このゲームで遊んでいる留衣にだけは知られたくなかった。
留衣には、助っ人として、いろんなパーティーの狩りの手伝いをしていると、嘘をついている。
あとは注意して、留衣と鉢合わせないようにすれば、気づかれることはない。
この日までは、そう思っていた。
きっかけは、『エンドレス・エデン』から届いたメールだった。
『オスクリダ様へ
おめでとうございます!
あなたは、エンドレス・エデンにおいて、最高レベルを習得されました!
今回、当社より次のステージへの特別パスを用意させていただきました!
是非、下記のアドレスへアクセスしてください!
これからも、オスクリダ様がエンドレス・エデンの世界を堪能されることを願っております。
『エンドレス・エデン』運営サイト『ヴィレッジ』より』
次のステージと言うのが、どういう意味かわからなかった。
隠しステージとかだろうか?
そんな軽い気持ちで、俺はアドレスにカーソルを移動させた。
その瞬間だった。
「うわっ!?」
突然、画面一面がブラックアウトした。悪質なウイルスメールかと、一瞬頭を過ぎったが、すぐに高速で何かの映像が流れ始める。全部関係ない映像に見える。海とか山とかの自然物から、電車や飛行機、どこかの街の雑踏や建物など、パッパッと映像が素早く切り替わって行く。
五分ぐらい続いたかと思うと、唐突に映像が消えた。パッと元のメール画面に戻ったのには気付いたが、俺はボーッと画面を見つめていた。
どのぐらいそうしていただろう。
ケータイの着信音で、ハッとした。まだ、どこかボーッとしてたが、俺はケータイを見た。ディスプレイには、留衣の名前が表示されていた。
「もしもし?」
電話に出ると、しばらく無音だった。
様子がおかしいことに気づいて、ようやく俺の頭もはっきりしてきた。
「おい、留衣! どうした!? 何かあったのか?」
『………美鶴』
ようやく声は聞こえたが、どこか元気が無い。というか、心がないというか、とにかく空っぽに聞こえた。
『私ね、もう、美鶴と学校に行けない』
「は?」
急な発言に、俺の中に過ぎったのは、俺が魔王であるのが、留衣にバレたということだった。しかし、続く留衣の言葉が、さらに混乱させる。
『私は勇者だから、魔王を倒さないといけないの』
「はあ?」