しかし、今更後悔しても遅い。愛実は、再び俺の腕を掴むと、生徒会室へ連行し始める。
「黒曜学園ではね。部活や同好会の申請にルールがあって、部活は五人、
同好会は二人以上の生徒が集まらないと認められないの。
部活にするほど人数はいらないけど、同好会という肩書きは欲しいから、
あんたも協力しなさいよ」
「俺は、お前がどんな同好会を作ろうとしてるのか、全く知らないんだが?」
突然拉致られて、何をするかもわからない同好会に入れられそうになっている。
抵抗するのは当然だろう。
俺がささやかな抵抗のつもりで立ち止まると、愛実は不機嫌そうに灰色の瞳を細めて、振り返った。
「バッカじゃないの。私の自己紹介聞いてなかったの?
私は都市伝説を作りたいのよ。
当然、同好会は不可解な事件や事故を独自に調べ、都市伝説を作るのが、活動内容よ。
そうね。同好会の名前は『CLF会』にでもしておこうかしら?」
今思いついたという感じで、愛実は胸ポケットに入れていたシャーペンを取り出すと、申請書の空欄だった同好会名のところに、『CLF会』と書き込んでいた。
それを見ながら、俺は首を捻った。
「CityLegend……『F』は何だ?」
「Fictionよ。
『CityLegendFiction』頭文字を取って『CLF会』。
うん。適当だけど、いいんじゃない?」
CityLegendFiction。直訳するなら、都市伝説捏造(ねつぞう)だろう。
「捏造って……」
思わず口に出してしまったが、愛実の耳には入らなかったようだ。
まあ、確かに不思議な体験とか不可解な体験談を脚色して都市伝説にするとは言っていたし、捏造で間違いはないのだろうが……
胡散臭すぎる。
何で俺がそんな妙な同好会の会員にされなければいけないのだ?
しかし、愛実はもう歩き出していた。ご丁寧に俺の腕をがっちりと掴んで。
こんな細い腕を振りほどくことは簡単だ。強く拒絶すれば、俺に関わろうとしなくなることも、簡単に予想できた。
だから、敢えて抵抗しなかった。
正直、呑まれていないとは言えなかった。こいつの語る都市伝説を騙るという行為に、興味がないと言えば、嘘になる。