小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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 だから、こいつの意志が覆(くつがえ)ることがないとわかりながら、無駄な質問を投げかける。

「同好会としての権限が欲しいなら、俺は幽霊会員でもいいんじゃないか?」

「ダメに決まってるでしょ。手足となって動いてくれる下僕(げぼく)が欲しいんだから」

 随分な言い分だ。

 だが、こいつほどの美人なら、ふんぞり返って『私の下僕になりなさい!』とか言えば、喜んで下僕になる男は多いんだろうなとも思う。

 わざわざ抵抗する俺を選ぶ必要なんて無い。

 だが、こいつの今までの発言を思うと、そうやって抵抗もせずすんなり命令を聞く人間に興味はないのだろう。

 だから、興味を示さなかった俺を選んだ。

 つまり、今現在、こいつにとって俺は特別なのだ。

 たとえ物珍しい玩具を手に入れたいという子供じみた感情によるものでも、俺が愛実に必要とされているのは事実だ。

 それは、平凡な生活を送っていた俺にとって、強い誘惑だった。

 そう思ってしまう時点で、俺の負けなのはわかっていた。

「手足って、具体的に何をするんだよ?」

 この質問で、俺が諦めたことを悟ったらしい愛実は、振り返って笑みを浮かべた。悔しいが、可愛い笑顔だった。

「都市伝説のネタになりそうな事件を一緒に調べるのよ。力仕事とかになると、男手がある方が便利だからね」

 力仕事になりそうな何をする気なんだ?

 そう思ったが、一先ず聞き流すことにした。その間に愛実は話を続けている。

「都市伝説自体を広めるなら、私一人で充分なんだけどね。ネットとか使えば、あっという間に広まるし。

でも、都市伝説に昇華させるには、下準備が必要なの。

一人でやるには限界があるのは、中等部で痛感したし、高等部に進学したら、誰か共犯者を作ろうって考えたのよ」

 協力者じゃなくて、共犯者という言葉に、俺は黙った。

 マジで、こいつは俺に何をさせるつもりなんだ?

 しかし、俺が抵抗をやめたので、愛実は上機嫌のまま話を続ける。

「宝楽(たから)って呼んでいいわよね。共犯者だから、私のことも下の名前で呼ぶことを、特別に許可してあげるわ」

 何故、こうも上から目線な発言が多いのだろう?

 それでも、共犯者だから特別だと言われている気分になるのだから、相当ヤバイ状態だ。

 喋って動かなければ、絶世の美人なのだ。惑わされるのは俺だけじゃない。さっきから無視していたが、愛実が廊下を歩くだけで、男女を問わず生徒たちや教師まで、わざわざ振り返って見ている。

 そして、同行者である俺を見て、妙な顔をしてすれ違っていく。

 悪かったな。俺だって、不釣合いだってわかってるよ。

「変な顔してどうしたの?」

 不意打ちで顔を近づけてきた。俺は動揺して一歩下がった。心臓に悪過ぎる。

 こうして、俺は黒冴(くろさえ)愛実(めぐみ)と共に『CLF会』などという妙な同好会を作ることになった。


そして、否応無しに不可解な事件へと巻き込まれていくのである。

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