「大丈夫だから、すぐに留衣に会いに行かないと……!」
俺の様子が只事じゃないと思ったのだろう。杏里兄ちゃんはすぐに家に向かった。俺もあとを追いかけた。
留衣の両親は共働きで、この時間帯は留衣と兄ちゃんしかいない。
だけど、家には、人の気配が無かった。
「美鶴、一体何があったんだ?」
俺は、無言のまま留衣の部屋へ向かった。兄ちゃんが後ろで何か言ってるが、それを無視して、留衣の部屋に入る。
留衣の部屋は、女の子らしい可愛い部屋だ。その中で、起動させっ放しのパソコンを見つけた。
近付いて、画面を見て、寒気がした。
『キャンサー様へ
おめでとうございます!
あなたはエンドレス・エデンにおいて、高レベルを習得されました!
今回、当社より次のステージへの特別パスを起動させていただきました!
是非、下記のアドレスへアクセスしてください!
これからも、キャンサー様がエンドレス・エデンの世界を堪能されることを願っております。
『エンドレス・エデン』運営サイト『ヴィレッジ』より』
頭がガンガンする。
『キャンサー』というのが、『エンドレス・エデン』内の留衣の名前だ。メールの日付からして、大体俺と似たような時間に、このメールを受け取っている。そして、留衣もたぶんあの映像を見たんだ。
だが、何で留衣は勇者で、俺は魔王なんだ?
ああ、クソ! そんなの考えるまでも無い!
『エンドレス・エデン』内で、俺は勇者狩りの勇者だったんだ。現実(リアル)で、それが反映されたっておかしくない。
それなら、俺以外にも魔王がいるはずだ。あのゲーム内に、俺以外の勇者狩りの魔王はいたんだから!
ふと、俺はパソコンの下に、便箋(びんせん)が挟まってるのが見えた。
それを引っ張り出すと、俺の名前が書かれた手紙だと気付いた。
『駿河美鶴様へ
こうして、改まって手紙を書くと、恥ずかしいね。
えっと、正直、今、混乱してる。
私の頭の中で、もう一人の私の声が聞こえるの。
この世には、魔王みたいな存在がいて、選ばれた勇者である私みたいな人間が、倒しに行かないといけないの。
だから、私はこの町を出て行くわ。
いつか、魔王を退治したら、帰ってくるから。そうしたら、きっと元に戻ると思うの。
だから、それまで待ってて。
私は絶対に帰ってくるから』