手紙を読みながら、泣いていた。
もう、後戻りなんてできない。『エンドレス・エデン』のプレイヤーは、そこら中にいる。今、こうしている時だって、いきなり襲われるかもしれない。
どうして、俺がゲームに選ばれたのか、わからない。
いや、選ばれたなんて、高尚なもんじゃない。ただ単に、ルーレットを回して、当たったのが俺だったってだけかもしれない。
それでも、俺は魔王にされてしまったのだ。
それなら、俺が生きる道は、たったひとつだけだ。
決意したとたん、頭の中で霧が晴れたみたいになった。
俺を狙う勇者の気配が、急にわかるようになった。たぶん魔王である俺からも、独特の気配がするのだろう。勇者とは異質のそれも、少しずつだが理解できるようになってきた。
俺が魔王になると決意したから、ゲームからのご褒美ってところか?
もしそうなら、バカにしている。
それでも、俺は魔王になる決意をした。
俺は黒曜市に身を寄せることを選んだ。
この街が相応(ふさわ)しい。
漠然と、そう思った。
そして、ゲームに選ばれた勇者たちは、俺を殺しに来た。俺も勇者を殺した。たったひとつの目的のために、綺麗事も、倫理も、全部かなぐり捨てて、勇者を殺した。
殺せば、殺すほど、俺が変わっていくのがわかった。
俺の中で魔王の気配が強くなり、人間でなくなっていくのがわかった。
それでも、魔王として生きている。
俺は留衣の手紙に返事が出せていない。当然だ。彼女がどこにいるかなんて、俺にはわからないんだから。
だから、俺は今日も、心の中で留衣に手紙を綴(つづ)っている。
『拝啓 津軽留衣様へ
俺はこの街で、魔王として生きている。
勇者を狩りながら、生き続けている。
もう、それしか残されていないから。
俺が魔王として生き続ければ、いつか魔王を退治するために留衣が会いに来てくれる。
その時に、俺は魔王として勇者(るい)に殺されよう。
だから、俺はこの薄暗い路地裏で待っている。留衣が来るのを待ち続けている。
その間に、何人の勇者を殺したって構わない。
魔王(おれ)を退治(ころ)していいのは、留衣だけだ。
だから、頼む。早く俺を殺しに来てくれ。
その時に言うから。
お前の聖剣に貫かれようとも、抱き締めて、絶対に言うから。
俺も留衣を愛してるよ。と』
Side:Cへ続く