Side:B
私が故郷を出て行って、四ヶ月が経っていた。
別に故郷が嫌になって出て行ったわけじゃない。
きっかけが何だったのか、それははっきりしている。
『エンドレス・エデン』
一部に熱狂的なファンを持つオンラインゲームだ。
私はそのゲームで、パーティーを組んで、モンスターハントをする勇者の一人だった。
でも、そのゲームを運営しているサイトから、メールが来た。そのメールを見てから、おかしくなった。
頭に声が響くのだ。
魔王を倒せ。殺せ、勇者よ。世界を救えと、ガンガンと響いてくる。
そう。
この世に魔王は存在している。それを倒すのに、私はこの黒曜市までやって来た。
この街に近付いた時、強い気配を感じた。暗く重苦しい魔王の気配だ。
ようやく見つけた。
そう思った。
でも、街に入って混乱した。
魔王の気配は感じるけど、あまりに大き過ぎて、場所の特定ができない。街全体に魔王の気配が漂っている。
さらに恐ろしいことに、私と同じ勇者の気配も感じるのに、次々と消えていっている。そのたびに魔王の気配が、どんどん強く濃くなっていく。
魔王は勇者を殺しているんだ。殺すたび、魔王はどんどん強くなっている。
もしかしたら、私より強くなってるかもしれない。
殺せるの?
私に、魔王が殺せるの?
ああ、こういう時に思い出してしまうのは、幼馴染の男の子のことだ。
駿河(するが)美鶴(みつる)は、私にとってのヒーローだ。
私がいじめられたら、必ず助けてくれた。いつも隣で、守ってくれた。
私の大切な幼馴染で、大好きな男の子。
美鶴が今、どうしているのか、私は知らない。予定通り進学しているのなら、この街にいるはずだけど、私との約束を守っているなら、故郷で待っているはずだ。
私の残した手紙を美鶴が読んでいるか、わからない。でも、きっと読んでると信じてる。だから、魔王を倒して、私は故郷に帰らなければいけない。
そこで再会すると、誓ってるんだから。
ああ、でも、どうして魔王が見つからないの?
人の気配の無い夕暮れのベッドタウンで、私はしゃがみ込んでいた。
その時、悲鳴が聞こえてきた。
私は立ち上がって、悲鳴が聞こえた方へ走って行った。その気配は、私と同じ勇者の気配だった。
「や、やめろっ! 俺は選ばれし聖戦士だぞ! ぐぎゃっ!?」
そんな声が聞こえてきた。
私が角を曲がると、そこには斧を振りかざしたスキンヘッドの大男が、中年男性の頭をかち割っている光景があった。
私の体が恐怖で震え出す。
何あれ?
まさか、あれが魔王なの……?
怖い。怖い。怖い。
戦わなきゃ、倒さなきゃ、故郷に帰るために、美鶴に再会するために……!
でも、どうしよう……
体が動かない。