小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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「あーあ。見ちまったか」

 背後から笹塚君の声がした。

 私は振り返って、問いかけた。

「何をしたの!? あれは何なの!? 他の勇者もああやって消えてしまったの!?」

「……他の勇者?」

 しまった……!

 相手に情報を渡してしまったことに、私が黙ると、笹塚君が慌てた様子で手を振る。

「そんなに警戒するなって。俺は、あんたの敵じゃない。あんたも勇者なんだな?」

 知ってる……?

 どうして?

 この人は、勇者じゃないのに……

 混乱する私に構わず、笹塚君は携帯を取り出した。どこかに電話をかけているみたいだけど……

「あ、愛実(めぐみ)か? 今、勇者だっていう女の子と一緒にいるんだけど……あ? 違うって。何でこんな時にナンパなんかするんだよ? とにかく、その子、今までのの勇者と何か違うんだよ。まともって言うか、理性的って言うか、話せばわかる感じなんだよ……ん。わかった。じゃあ、待ってる」

 電話を切ると、笹塚君は私を見た。

「今、この辺りをうろつくのは危ないから、一先ず仲間と合流するまで待ってくれるか?」

「どうして、知ってるの?」

 私の質問に、笹塚君は髪に手をやって説明する。

「今、この街を中心に『路地裏の魔王』っていう都市伝説が流行ってるんだが、知ってるか?」

 私は首を振った。笹塚君は苦笑した。

「そうだよな。疎いって言ってたもんな。まあ、簡単に言うと、ネトゲ廃人たちが、現実と虚構の区別が付かなくなって、勇者と魔王に別れて、毎夜殺し合いをしてるって内容の都市伝説だ」

 その内容はまるで、私たちみたいだった。

 でも、別に私はネトゲ廃人のつもりはない。依存しているわけでもないし、現実と虚構を一緒にしてるつもりもない。

「俺の知り合いに、そういう都市伝説マニアがいてな。そいつが実際に魔王と知り合いだって言うから、会いに行ったんだよ」

 魔王という言葉に、ドキッとした。この街には、魔王の気配が漂っている。もしかしたら、私が捜している魔王かもしれない。

「んで、その魔王から、『エンドレス・エデン』の話を聞いたんだ」

 どういうことか、わからなくて、私は眉を寄せた。

 どうして、魔王が『エンドレス・エデン』のことを知ってるの?

 魔王もプレイヤーの誰かってこと?

 笹塚君が言い辛そうに私を見ていた。少し悩んだ様子で、口を開く。

「さっきの見たんだよな?」

 さっき……?

 死体が消えたこと?

「勇者たちは、死んだら、遺体が残らないそうだ。まるでゲームのキャラクターみたいに、ゲームオーバーになったら、データが消されるみたいに存在が消えるらしい」

 笹塚君の言葉は、私の中を素通りした。

 だって、虚構(ネット)と現実(リアル)が一緒になるなんて在り得ない。在り得ないはずだけど――

 でも、あんな風に消滅するのが証拠だと言われているようで……

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