どうして、彼から魔王の気配がするの?
殺せ! 世界の平和のために!
どうして、彼が魔王なの?
殺せ! お前の使命を果たすために!
どうして、私が彼を殺さないといけないの?
殺せ! 魔王を殺すことが、お前たちの存在理由だ!
頭が痛い! 割れそう! 声がガンガン響く! やめて! やめて! 殺したくない! どうして、美鶴を殺さないといけないの!?
「留衣! 危ないっ!」
美鶴が私の腕を引いた。
何? 何が起こったの!?
美鶴に抱き締められつつも、私は後ろを振り返った。そこには斧を持った大男がいる。その斧が血で赤く染まっていた。
……誰の血?
私に怪我は無い。ということは……
美鶴の腕を見ると、血が滲んでいた。斧男から、庇ってくれたんだ。
今だ! 殺せ! 世界を破滅に導く者だ! 殺せ!
まだガンガンと頭に声が響いている。
殺せ! 美鶴が庇ってくれた。殺せ! 小さい頃から変わっていない。殺せ! 今も昔も、私を守ってくれる存在。殺せ! 美鶴は、いつだって私のヒーローだ。殺せ!
私の思考と声が喧嘩を始める。
殺せ殺せ殺せと、まるで耳鳴りみたいになってきた。
うるさい! 黙れ!
私はナイフを突き立てた。
美鶴を攻撃しようとする大男の足に。
その瞬間、私の中で何かが切れたような気がした。そのまま意識を失ってしまった。