「あ、いたいた」
何かを見つけたらしく、入り組んだ奥へと入って行く。俺も後を追いかけた。
「久しぶりね、魔王。元気だった?」
愛実が声をかけた方を見て、俺は唖然とした。
魔王と呼ばれたのは、俺たちと同い年ぐらいの子供だった。派手な金髪はしてるが、どこにでもいそうな人間に見えた。
ただ、そいつの前に頭を割られた男と血に染まる鉄パイプさえ持っていなければ、の話だが。
金髪の魔王は、愛実を見つけると笑みを浮かべた。
「久しぶり、愛実。そっちは友達か?」
「そうよ。笹塚(ささづか)宝楽(たから)っていうの。私の下僕」
「をい。」
友達か? という質問に、自分の下僕という返答があるか。
俺は容赦無く、愛実の頭をベシッと叩いた。
「ちょっと! 痛いわね! ムカつく!」
「人を下僕呼ばわりするな。失礼な奴だな」
「私の手足として働いてくれるって言ったじゃない!」
「言ってねぇっ!!」
何でこいつは、事実を捏造してばかりなんだよ!
俺と愛実のコントのような会話に、魔王が笑って近付いてきた。
「俺は駿河(するが)美鶴(みつる)。一応、魔王やってる」
俺の視線が、男の死体に行った。魔王もそっちを見て、すぐに答える。
「あんたが勇者じゃなければ、殺さないよ。一応、まだ一般人は殺したことないし」
「……勇者って、何だ?」
俺の質問に、魔王がこちらを見た。茶色の瞳は、どこか深みがあって、同い年のはずなのに、何百年も生き続けてるかのような悲壮感が見えた。……ような気がした。
「『エンドレス・エデン』っていうネトゲ、知ってるか?」
俺は無言のまま首を振った。生憎、ネトゲに興味は無い。
「一部のゲーマーの間では、特殊な遊び方ができると有名だったんだ。俺も、特殊な遊び方をしてた一人なんだ」
「特殊な遊び?」
「そのゲームでは、プレイヤーがプレイヤーを狩ることができるんだ」
ネトゲって言うと、協力対戦物とかを想像してたけど、そうじゃないのか?
「プレイヤーを狩るプレイヤーは魔王と呼ばれてた。俺も魔王の一人だったよ。『オスクリダ』って言えば、勇者共が逃げ出すほどの超有名魔王だったんだ」
『オスクリダ』というのが、魔王のゲーム内の名前だったらしい。
でも、そのゲームと、今の状況に何の関係があるんだ?
表情に出ていたらしい。魔王が俺を見て、笑った気がした。
「俺も四ヶ月前までは、あんたと同じ普通のどこにでもいる一般人だったよ。でも、ゲームの運営サイトから送られてきたメールで、全部変わった。次のステージへ行ける特別パスって奴を貰った五分後、急に勇者たちに命を狙われ始めた」
許容量を超えそうになってきた。
つまり、どういうことなんだ?
「勇者たちにも、似たようなメールが配られてて、添付されたアドレスを見ると、どうでもいい映像が一気に流れ出す。今思えば、あれ、サブリミナルみたいな洗脳映像かもしれないな。とにかく、それで自分は魔王を倒す勇者だって本気で信じて、魔王にされた俺に襲い掛かってくるってわけだ」
ようやく話が見えてきた。
つまり、勇者っていうのは……
「都市伝説の八十パーセントぐらいは真実ってわけだ。ただ、勇者も俺も俳人ではなく、しっかり現実として受け止めている。まあ、勇者の方は正気じゃない奴が多いけどな。洗脳の副作用かな?」
死体さえ転がっていなければ、電波か中二病だろうと、切り捨てたかもしれない。
だが、俺の前で死体に変化が現れた。
男の体が淡く光ったかと思うと、光の粒子になって、そのまま消えて行った。魔王もその消滅の様子を見ながら言う。
「あれだけが謎なんだよな。まるでさ。タチの悪い冗談みたいだよな。現実(リアル)なんだからさ、ゲームと違ってコンティニューは無し。死んだら、そこでゲームオーバー。復活は無しですってことを現してるのかもな。まあ、とにかく勇者が死んでも、死体はおろか血痕すら残らない」