俺が促すと、愛実は少しだけ機嫌を治して、説明する。
「魔王を囮にして、ウチの学園近くのベッドタウンに勇者を集めるわよ。そこで、魔王にも、気配とやらが街全体を覆うまで勇者狩りをしてもらうから。雷神会の方にも情報を流して斧男を派遣するようにお願いしたから。勇者狩り争奪戦ってトコね。その間に、私は雷神会と交渉して、魔王は放置するように交渉してみるから」
それで、明日の夕方決行ということらしい。
もう、雷神会の関係者には連絡しているため、反対することもできない。まあ、俺は反対するつもりはないけど。不謹慎とは思うけど、やっぱ非日常な出来事はわくわくしてしまう。
魔王の方も、勇者狩りに否があるわけもなく、明日の夕方再び再び落ち合うことで話がついた。
そして、次の日の夕方。
俺は先生に用事を頼まれて、少し遅れた。待ち合わせ場所に行くと、先に行っていた愛実とすでに待っていたらしい魔王の二人がいた。
何か話していたようだが、俺が来ると、急に話を止めた。
「宝楽、遅いわよ!」
「悪かった。何話してたんだ?」
俺の質問に、愛実は少し考えるような素振りを見せてから、笑った。
「今日、魔王がずっと探してるっていう勇者に会えるわよって話」
「その根拠は?」
「勘に決まってるじゃない」
まあ、そうだよな。
俺は魔王を見て問いかけた。
「その探してる勇者ってのは、一体何者なんだ?」
「……幼馴染の女の子だよ。魔王を殺すために、故郷を飛び出した勇者だ」
俺が目を丸くしていると、魔王はどこか自嘲気味に笑った。
「あいつは俺が魔王だってことは知らない。でも、俺はあいつに殺されるために、魔王として生きると決めたんだ」
俺の視線は愛実に向いた。愛実はにこやかに笑みを浮かべている。
「逮捕は許せないけど、魔王と勇者の戦いに決着がつくなら問題ないわ。どちらが消えても、新たな都市伝説にすることに変わりないもの」
つまり、現実的か非現実的かによって、話が変わるってことか。
「じゃあ、斧男に見つからないように、勇者狩りしていくわよ」
あまり、大声でそういうことを言わないんで欲しいんだが……
一先ず、俺たちはベッドタウンに入っていった。
魔王の言った通り、気配を追ってきた勇者たちに、すぐに遭遇した。魔王が慣れた様子で勇者を殺すのを、安全地帯で見ながら、愛実に声をかけた。
「で、実際、魔王を殺せる勇者が来たら、どうするんだ?
「勇者なら別にいいのよ。勇者が魔王に殺されても、魔王が勇者を殺しても、『路地裏の魔王』の完結に相応しい話になるわ。でも、逮捕されたり、斧男に殺されたりっていうのは、納得できないわ。都市伝説同士が繋がるなんて、ナンセンスだもの」
妙なこだわりがあるらしい愛実に、俺は何も言わず魔王を見つめた。
斧男のこともあるし、ここまで派手に暴れてていいのだろうか?
そんな俺の不安が的中したかのように、突然背筋に寒気が走った。その瞬間だ。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
獣のような咆哮が、ベッドタウンに響いた。