「あーあ。見ちまったか」
どう説明したものか、困っていると、津軽が掴みかかってきた。
「何をしたの!? あれは何なの!? 他の勇者もああやって消えてしまったの!?」
「……他の勇者?」
まさか、こいつも自称勇者だったのか?
見ると、津軽が焦ったような表情を見せている。まさか、敵とか思われたか?
妙な誤解を招きたくなくて、俺は慌てて弁解した。
「そんなに警戒するなって。俺は、あんたの敵じゃない。あんたも勇者なんだな?」
俺の質問に津軽が答える様子は無い。
弁解するつもりが余計混乱させてしまったらしい。会話ができる状態じゃないと判断して、俺は一先ず愛実に連絡を入れることにした。
『もしもし?』
「あ、愛実(めぐみ)か? 今、勇者だっていう女の子と一緒にいるんだけど……」
『何で、ナンパなんかしてるのよ!』
「あ?」
理不尽に怒鳴られて、思わず半眼になってしまう。
「違うって。何でこんな時にナンパなんかするんだよ?」
何でこいつは妙な発言ばっかするんだ?
「とにかく、その子、今までのの勇者と何か違うんだよ。まともって言うか、理性的って言うか、話せばわかる感じなんだよ」
俺の説明に、愛実は少し黙った。
『……そう。一先ず、その子に会ってみたいわ。斧男はいた辺りよね? 今からそっちに行くから』
「ん。わかった。じゃあ、待ってる」
電話を切ると、俺は津軽を見た。
「今、この辺りをうろつくのは危ないから、一先ず仲間と合流するまで待ってくれるか?」
今の電話の間に、少し落ち着いたらしい。それでも、どこか不安の残る様子で問いかけてくる。
「どうして、知ってるの?」
ん〜、やっぱ、説明しなきゃいけねえよな。
でも、どう説明したって、妙な妄想癖の持ち主にされそうな気がした。頭に手をやって、そのまま説明する。
「今、この街を中心に『路地裏の魔王』っていう都市伝説が流行ってるんだが、知ってるか?」
津軽が首を振るのを見て、苦笑した。
「そうだよな。疎いって言ってたもんな。まあ、簡単に言うと、ネトゲ廃人たちが、現実と虚構の区別が付かなくなって、勇者と魔王に別れて、毎夜殺し合いをしてるって内容の都市伝説だ」
俺の説明に、津軽は少し戸惑いつつも、理解してくれたようだ。それを確認して、説明を続ける。
「俺の知り合いに、そういう都市伝説マニアがいてな。そいつが実際に魔王と知り合いだって言うから、会いに行ったんだよ」
自分で言ってて嫌になってきた。
日常会話に『魔王』なんて単語は、普通使わねえよな。津軽が引いてないのが救いだな。
いや、まあ、津軽が、魔王の言ってたゲームのプレイヤーなら、魔王という単語も受け入れて当然か……
そんなことを考えながら、話を続ける。
「んで、その魔王から、『エンドレス・エデン』の話を聞いたんだ」
津軽がわけがわからないという表情を浮かべている。
というか、ゲームの話をするにしたって、部外者の俺が語ってもいいのだろうか?
魔王から直接聞いた方がいいんじゃないのか?
色々疑問は浮かぶが、結局、話すことにした。さっきの光景を目撃したのだ。愛実と魔王が来るまで、我慢しろとは言えなかった。