小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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「さっきの見たんだよな?」

 一応、確認のつもりで問いかける。

 キョトンとしていたが、すぐに死体が消滅したことだと気づいたらしい。俺は順序を立てて説明することにした。

「勇者たちは、死んだら、遺体が残らないそうだ。まるでゲームのキャラクターみたいに、ゲームオーバーになったら、データが消されるみたいに存在が消えるらしい」

 魔王から聞いた話をそのまま説明すると、津軽は呆然としたまま聞いていた。

 否定の言葉がない様子から、彼女もゲームに洗脳された勇者なのだと確信する。

 しかし、いきなりゲーム会社の洗脳がどうのと言っても、混乱させるだけだろう。洗脳されてる人間に、それは洗脳だって言っても通じないって言うし。

 だから、俺は洗脳に関しては黙っておくことにした。

 さっき勇者が消えたのを目撃しているおかげで、俺の話は信じてくれたようだ。

 困惑していた津軽の様子が、不意に変わった。

 その瞬間、俺の耳にも、あいつの息遣いが聞こえた。

「おわっ!?」

 ほとんど勘で避けると、頭の横を斧が通り過ぎる気配がする。

 津軽を庇うと、俺は彼女の手を掴んで走り出した。

「逃げるぞ!」

 背後から呻き声みたいなものが聞こえて、さらに風を切るような音までする。ヤバイ。寒気が止まらない。マジで怖いかも……!

 それは津軽も同じだったらしい。

「きゃあっ!?」

 悲鳴が聞こえたと思った瞬間、繋いでいた手が離れた感触がした。慌てて振り返ると、津軽は足をもつれさせて、転んでしまったらしい。

 そのまま恐怖に包まれたらしい津軽は、動けなくなったようだ。情けないことだが、俺の体も動いてくれない。

 斧男がその大きな斧を振り上げる。

 その瞬間、俺の視界に斧男と津軽の間に、何かが割り込んだのが見えた。

 最初に認識したのは、茜色の光を跳ね返すような金髪。次に、斧を受け止める鉄パイプ。

 自称勇者を助けたのは、勇者狩りをしているはずの魔王だった。

「み、美鶴……?」

 いつの間にか、振り返っていた津軽が、魔王を見て呟いていた。確か、美鶴って魔王の本名だよな?

「留衣、久しぶりだな」

 振り返った魔王が笑顔で言う。

 その様子を見て、確信した。彼女が、魔王が探していた勇者だ。唯一魔王が殺されてもいいと思っている勇者。

 しかし、津軽は混乱した様子で、耳をふさいで頭を降り始めた。まるで、俺たちには聞こえない何かが聞こえているかのようだった。

 その間に、拮抗していた斧男と魔王のバランスが崩れる。斧男の斧を受け止める形になっていたのだから、当然魔王の方が負担が大きい。押され始めた魔王が、苦悶の声を上げる。

「くっ!」

 次の瞬間、斧男が斧を薙いで、魔王の鉄パイプを払っていた。斧男は大きい体にそぐわない動きで、斧を振り下ろし続けるが、さすがは戦い慣れた魔王だ。斧を避けると、斧男の間合いに入り、鉄パイプを振り下ろして、そのスキンヘッドを殴りつけた。

 斧男が衝撃に動きを止めた時だった。

「ちょっと、魔王! 何してんのよ!?」

 慌てた様子の愛実の声が聞こえてきた。俺と津軽の横をすり抜けると、魔王の腕を乱暴に掴んで、怒鳴りつけた。

「斧男に喧嘩売るなんて、バカじゃないの!? ほら、さっさと逃げるわよ!」

「え? あ! おい、愛実!?」

 魔王の返事なんて聞かずに、愛実はそのまま走り去って行った。

 俺と津軽が唖然としていると、頭に手をやって膝をついていた斧男が、獣のような方向を上げた。

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