そして、もうひとつ気になることがある。
あの事件の後、愛実は『エンドレス・エデン』と運営サイト『ヴィレッジ』を調べたらしい。
しかし、そんなゲームは存在しないし、『ヴィレッジ』も存在しなかったそうだ。
愛実の仮説では、洗脳実験のためにオンラインゲームを利用し、魔王VS勇者という構図を作ったから、『エンドレス・エデン』は必要なくなったので、削除されたのかもしれない。ということだ。
俺はそもそも『エンドレス・エデン』なんて、最初から存在していなかったという説を提示してみたが、ネットでさり気なく聞いてみたら、何人か知っていたから、それは在り得ないと言われた。
とにかく、実際そんな洗脳実験をしていたとして、事後処理も雑な『ヴィレッジ』という組織は、薄気味悪いという印象しかない。
本当に、後味の悪い謎が残ってしまった。
「愛実の奴、絶好調って感じね」
考え込んでいた俺に、そう言ったのは斎姫(いつき)だった。俺の机に手を置くと、斎姫は笑みを浮かべた。
「どうせ、後日談を流したのだって、愛実なんでしょう?」
「ああ。一応、事実は基にしてるな」
俺の返事に、斎姫は眉を寄せた。
「また何かに巻き込まれたの?」
「ん〜、まあ……」
曖昧に返事すると、斎姫が俺の肩に手をやって、顔を近づけてきた。
「危ない目に遭うのが嫌なら、はっきり言えば?」
「嫌じゃないから、困ってる」
俺の返事に、斎姫は眉を寄せた。
「何それ、ノロケ?」
「……何でそうなるんだよ?」
付き合ってもいないのに、何でノロケなんか言わないといけないんだよ。
斎姫は拗ねたように、そっぽを向いた。
「私だって心配してるのに……」
俺に背を向けて、後ろ手に組んで斎姫が呟いた。
えーっと、これは、どんな状況だ?
「怪我とかはしないように注意してるぞ?」
ギロッと斎姫が睨んできた。どうやら、言葉選びに失敗したらしい。
俺は頭に手をやって、斎姫に笑いかけた。
「悪かった。機嫌治してくれたら、嬉しいんだけど?」
「別に困らせたいわけじゃないの。そういう顔しないでよ、卑怯よ」
「機嫌治してくれたら、すぐにやめる」
俺が言うと、斎姫が笑った。それにつられて僕も笑い返す。
「別にさ。愛実のことを迷惑だって思ったことは無いよ。マジで困ったことにさ。あいつが非日常に首突っ込むたびに、俺もわくわくしてる。もし、心配だって言うなら、お前も一緒にやるか?」
俺の提案に、斎姫が苦笑した。
「遠慮しておくわ。愛実がいいなんて言うとは思えないもの」
「参加したいなら、説得するぞ」
すると、斎姫が俺を見つめた。それから、急に笑顔になったと思ったら、抱きついてきた。