小説『ソードアートオンライン〜2つのスキルを持つ蒼の剣士〜』
作者:レイフォン()

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第2話 SAOの世界


「リンク・スタート」


瞬間、音が全て遠ざかり、視界が暗闇に包まれた。それと共に俺は中央に広がる虹色のリングをくぐった。


「きたぜ……すげえな」


LOG INした俺が目を開けると目の前に広がる光景に、俺は声を漏らした。
俺はゲーム系で、オンラインゲームなどはほとんどやったことがあるが、こういったダイブするゲームは初めてなんだよな。けど、デジタルでこんな光景を作れるとは…恐れ入ったぜ。


さて、明日奈が来るまでにSAOの世界についての説明をしておこう。


俺が調べ、βテスターであるメル友に聞いた情報によると


この世界の全ては無限の蒼穹に浮かぶ巨大な石と鉄の城でできている。
職人クラスの酔狂な連中がひと月がかりで測量した結果、基部フロアの直径はおよそ10kmあり、世田谷区がすっぽり入ってしまうらしい。
その上に無虜100に及ぶ階層が積み重なっているというのだから、茫漠な広大さは想像も絶するとの事だ。
総データ量など推し量るだけ面倒だ。
内部には幾つかの都市と多くの小規模な街や村、森と草原、湖まで存在する。
上下のフロアを繋ぐ階段は各層にひとつのみで、その全てが怪物のうろつく危険な迷宮区画に存在している為、発見も踏破も困難だが、一度誰かが突破して上層にある都市に辿り着けば、そこと下層の各都市にある≪移転門≫が繋がる為、誰もが自由に行き来できる様になる。
そして、城の名はアインクラッド。1万人ものプレイヤーがいることになる場所である。


まあ、こんな感じかな?


そう、俺が思っていると俺の隣にプレイヤーが現れた。
栗色のロングに、栗色の瞳……どう見ても


「明日奈か?」


「えっ?」


明日奈が俺を見て驚く。


「錬?」


「おう。ここでは錬は錬でも、Renのレンな」


「私も明日奈だけどAsunaのアスナよ」


俺もアスナもリアルに近い感じにキャラ作成しているようだ。


俺は右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて掲げ、真下に振る。
説明書に書いてあった、ゲームのメインメニュー・ウィンドウを呼び出すアクションである。


「…?なにやってるの?」


俺の行動の意味が分からなかったようで、アスナが訪ねてきた。


「メインメニュー・ウィンドウを呼び出す動作だよ。説明書読んでないのか?」


「キャラ作成とかに時間かかると思ってそこまで読んでいないのよ」


そう、アスナが言うのでやり方を教える。アスナは教えた通りに指を掲げ、下に振った。

「あ、ほんとだ。色々書いてある」


「それがメインメニュー・ウィンドウ。自分の所持品やステータスを確認したり、フレンド申請もそこからできる。従来のオンラインゲームはメールとかでフレンド登録したりとかだったけど、SAOは指で捜査していくようだな」


「へぇ…さすがレンね。ゲームに詳しいわね」


アスナがメニューを見ながら、指を動かしている。


俺も、自分のメニューを見て、所持品を確認する。
ふ〜ん。やっぱり、初期装備らしい装備だな。装備は片手剣に鎧、ブーツか。ま、こんなもんか。
アクセサリーの類や、消費アイテムもない。
所持金は500コルか…一度町の中を見回って、安い店でも探してみるか町を出て、モンスターを狩りながらコル
を溜めて、経験値を溜めるか。アスナにやり方を教えることもあるしな。


そう、思っていると


「……ん?」


メニューの中に現れた、一つのウィンドウ。


(キャラクター名『アスナ』よりフレンド申請があります)


アスナの方に顔を向けると、笑顔でこちらを見ていた。
その様子を見て、俺も自然と笑みが浮かんでくる。
俺はウィンドウの中にある、yes・noのボタンの、yesを押した。


(『アスナ』をフレンドリストに登録しました)


おそらくアスナのメニューにも、申請が受理された内容のウィンドウが現れたのだろう。
一度メニューを見て、再度こちらに顔を向けた。


「よろしくね、レン」


「おう。さて、早速町を出て、フィールドで戦い方とかを覚えないとな。俺もアスナも」


「そうね」


俺は走る動作を落ち度、確かめ、アスナも俺を真似て走る動作確認をする。


「よし、走る動作はこれでOKか。んじゃ、外に行くぞアスナ」


「了解!」


人が多くなってきたので、近道の細い道に入ってフィールドに出ていこうとする俺とアスナに、


「おーい!そこの兄ちゃん、嬢ちゃん達!」


急に呼ばれた為、俺は思わず急停止をかけてしまい、後ろを追随してたアスナも俺に続いて停止する。


そして、その後ろから、赤い髪に赤と黄のバンダナをつけた男が走ってきた。


その男は、俺達の前につくと、肩で息をしながら立ち止った。


「「俺/私?」」


俺とアスナは同時に、その赤髪の男に聞いた。


「その迷いのない動きっぷり、アンタ等、βテスト経験者だろ」


そう、聞いてきた男に俺が答える。


「いや、俺達はβテスターじゃないけど?」


「……マジで!?それなのにその動きなのか!?」


「ああ。俺のメル友にβテスターがいるのとゲームに関して俺はこういうのが得意でな。さっき、アスナ…あー彼女と一緒に動作の確認をして、フィールドに行くことにしているんだ」


そう、俺が答えると


「ならよ、オレも一緒にフィールドに言って序盤のコツ、一緒に教えてくれないか?」


そう、俺に手を合わせる男。俺はアスナを見て、「いいか?」とアイコンタクトすると、「いいよ?」とアスナが言うので、


「じゃあ、一緒にやろう」


「よっしゃ!俺の名前はクラインだ。よろしくな!」


急に自己紹介する男…クラインに苦笑しながら俺達も自己紹介する。


「俺はレンだ」


「私はアスナ。よろしくね」


とりあえず、その後、3人でパーティを組むと、店を回り、俺・アスナ・クラインの装備を整える。


クラインは海賊刀(カトラス)を選んだ。アスナは細剣(レイピア)。俺はそのまま片手剣だ。メル友によると刀スキルがあるらしいが、片手剣やクラインの選んだカトラスなどの熟練度をあげると出るらしい。
ちなみに、アスナはレイピアを買ったのはいいが、レイピアのスキルがなかったので装備できず、片手剣のスキルをあげる事にした。


その後、行く予定だった、街の西にある草原に向かった。







〜西の草原〜


「ぬおっ……とりゃっ……うひええっ!」

奇妙な掛け声に合わせて滅茶苦茶に振り回された剣先が、すかすかすかっと空気のみを切っていく。


直後、巨体のわりに俊敏な動きで剣を回避してのけた青いイノシシが、攻撃者に向かって猛烈な突進をお見舞いした。


平らな鼻面に見事吹っ飛ばされ、草原をころころ転がる有様を見て、俺とアスナは思わず笑い声を上げた。


俺とアスナは既にやり方を覚えている。今はクラインの番だ。


「くく、そうじゃないぞ、クライン。重要なのは初動のモーションだ」


「そうですよ。クラインさん。重要なのは初動のモーションです」


2人で同じことを言うと、クラインは


「んな事言ったってよう…アイツ動きやがるしよ」


「敵が動くのは当たり前だと思うんだけど…」


クラインは直ぐにモーションなどを覚えた俺やアスナ…特に今までゲームなどをした事のないアスナを見て、俺だって!といきこんでいたが逆にそれが空回りしている。


俺はとりあえず、見本を見せるため、草むらにある小石を右手で持った。


「ちゃんとモーションを起こして、ソードスキルを発動させれば……」


小石を持った右手を肩越しに構え、ソードスキルのファーストモーションを起こした。


右手にある小石が赤く光りだす。


「ふっ!」


と声を上げ、俺の右手はほとんど自動的に閃き、空中に鮮やかな赤のラインを引いて飛んだ小石が明後日の方向を向いていたイノシシの尻に直撃した。


「ぷぎー!」


と怒りの叫びを上げて、イノシシが俺に向き直る。


「あとは自動的にシステムが命中させてくれる」


最後に、そう付け加える。


「モーション……モーションねぇ……」


呪文のように繰り返し呟きながら、クラインが右手で握ったカトラスをひょいひょいと振った。


青イノシシ、正式名称は(フレジーボア)、だったか。


アレはレベル1の雑魚モンスター。でも、空振りと反撃破断を繰り返しているところを見るに、クラインのHPバ
ーは半分ほど減っているように見える。


別に死んだってすぐ近くの(はじまりの街)で蘇生できるのだが…もう一度今の狩場まで歩いて来るのは億劫だ。まぁ、この戦闘を引っ張れるのもあと攻防1回が限度だろうがな。


「どう言えばいいかね……。1、2、3で構えて振りかぶって斬るんじゃなくて、初動でほんの少しタメを入れて
スキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこう…ズパーン!て打ち込む感じで……」


「ズパーン、てよう」


悪趣味な柄のバンダナの下で、剛毅に整った顔を情けなく崩したクラインをみて、アスナが苦笑しながら言う。


「えっと、取りあえず、中段に構えてみたらどうですか?」


軽くアドバイスをしたアスナにクラインは小さく頷くと、カトラスを中段に構えた。


ゆっくりと深呼吸をしてから腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。


今度こそ規定のモーションが検出され、ゆるく弧を描く刃がギラリとオレンジ色に輝く。


「おりゃあっ!」


太い掛け声と同時にこれまでとは打って変わった滑らかな動きで左足が地面を蹴った。


しゅぎーん!と心地良い効果音が響き渡り、刃が炎の色の軌跡を中に描いた。


片手用曲刀基本技(リーバー)が、突進に入りかけていた青イノシシの首に見事命中し、こちらも半減していたHPを吹き飛ばした。


ぷぎーという哀れな断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散り、俺達の目の前に紫色のフォントで加算経験値の数字が浮かび上がった。


「ぁはっ……ぅうおっしゃあああ!!」


派手なガッツポースを決めたクラインを見てると、思わず笑みがこぼれた。


とりあえず、クラインは俺とアスナとハイタッチを交わした。


「初勝利おめでとう。でも、今のイノシシ…他のゲームじゃスライム相当だけどな」


俺がそう言うとクラインにショックを与えた。


「えーー!?マジかよ。オリャ、てっきり中ボスか何かだと」


「んなわけないだろ」


「私でもそんなこと思わないのに…」


グサッ


ゲーム初心者であるアスナにまで言われたクラインはショックでorzとなる。


そうしていると再び、青イノシシが現れた。


俺は剣を構え、システムにないモーションをする。


「散沙雨!」


ズズズズ!


連続突きで青イノシシを拘束、続いて


「虎牙破斬!」


斬り上げから斬り下ろし斬る。


ぷぎーという哀れな断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散る。


カチャ


剣を鞘に収め、俺の目の前に紫色のフォントで加算経験値の数字が浮かび上がった。


「…できたぜ」


「すげえ、今のって前に流行っていたゲームの技だよな!?」


「おう!システム外の技ができるかなって思ってやったらできたぜ」


俺が小学生の頃にやったゲームの技を使ってみたら出来たよマジで。


「システム外の技だから硬直とかがあんまりないからいいかもな」


「本当にレンはゲーム好きよね…」


アスナは改めて俺が超が付くほどのゲーマーと認識したようだ。


なお、クラインとフレンド登録し、パーティーを組んではや1時間。
その間、倒したモンスターの数は次の通り。


俺が12。アスナが6.クラインが1である。


俺が多いのはシステム外の動きなどができるかなどをしたり、システム外の技などを使っていたらこうなった。
とはいっても試した技は2つだけだけど。
俺とアスナはレベルが1、上がっている。レベルアップのボーナスを割り振り、STR(筋力)とAGL(敏捷)をあげた
。両方とも攻撃力の上昇につながる。これは他のゲームなどと同じだ。


そして、クラインがソードスキルをおさらいしながら何度も繰り返すのを見ながら俺は改めて周りを見る。


四方にひたすら広がる草原は仄かに赤みを帯び始めた陽光の下で美しく輝いている。


遥か北には森のシルエット。南には湖面のきらめき。東には街の城壁を薄く望むことができる。そして西には、無限に続く空と金色に染まる雲の群れがある。


巨大浮遊城(アインクラッド)の第一層、南端に存在するスタート地点(はじまりの街)の西側に広がるこのフィールドに俺達がいる。


周囲では俺達のように……多くのプレイヤーが同じようにモンスターと戦っているはずだ。


でも、空間の恐るべき広さのおかげか、視界内に他人の姿はない。


ようやく満足したのか、クラインが剣を腰の鞘に戻しながら近づいて来た。


クラインも俺達と同じようにぐるっと視線を巡らせている。


「しっかしよ……こうして何度見渡しても信じらんねぇな。ここが &amp;quot;ゲームの中&amp;quot; だなんてよう」


「中と言っても魂がゲームに取り込まれたわけじゃないぜ?俺達の脳にナーブギアが電磁波に乗せて流し込んで、情報を眼や耳の代わりに直接見聞きしているだけなのだよ」


俺がそう説明するとクラインは子供のように唇を尖らせた。


「お前、本当に俺と同じ初の≪フルダイブ≫体験者か?俺はもう、ワクワクしているぜ!すっげーよなあ、っ
たく……マジ、この時代に生きててよかったぜ!!」


「大げさな奴だなあクラインは」


「……(言えない。私もクラインさんと同じように思ってたなんて///)」


ん?アスナが目を逸らしているな。…なぜ?


「マジでいいよなβテストの奴等は。俺達より一足先にこの体験をしているんだぜ?ソードアート・オンラインをやる為に慌ててハードも揃えたって感じだな。たった1万本の初回ロットをゲットできるとは我ながらラッキーだよなぁ」


「それは俺も同じだ」


「私は兄さんのを借りているからな…そう言うのはわかんないな」


ま、アスナは浩一郎さんに借りているからこういったのはわかんないか。


「なぁ。ベータん時は、どこまで行けたか知っているか?」


「メル友は自分のパーティーだけが8層まで行けたって言ってたぞ?その間、何度もやられてたって話だ」


シャキン


俺は剣を抜き、言う。


「この世界ではこれ(剣)一本でどこまでいけるか仮想空間なのにさ……現実世界より生きてるって感じがする気がする」


俺はそう言いながら剣を鞘に戻した。


「さて、もう少し狩り、続けるか?」


とりあえず、休憩はこれぐらいにして、クラインにそう聞いた。


「ったりめぇよ!…って言いたいとこだけど……」


その途端、グギュルルルルという音がクラインの腹から響いた。


「腹減ってよ……ちと落ちるわ」


その姿に思わず吹いてしまう。


「コッチの世界は空腹感がまぎれるだけですからね」


アスナも笑いながらそう言った。


「へっ!5時半にアツアツのピザを予約済みよ!!」


「「準備万端だな/ですね」」


「おうよ!!ま、飯食ったら、またログインするけどよ」


「なるほどな。俺とアスナはもう少しだけ、狩りを続けて一度落ちるさ」


俺がそう言うとクラインは、手を叩きそうだ!と言う。


「なぁ、この後、オレ、他のゲームで知り合った奴と落ち合う約束してるんだ。どうだ?アイツ等ともフレンド登録しねぇか?」


「いいかもな。知り合いを作るのも」


「私もいいよ」


「よし、なら後でな!」


クラインが一歩退き、右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて掲げ、真下に振った。


ゲームの(メインメニュー・ウインドウ)を呼び出す為のアクションだ。


忽ち、鈴を鳴らすような効果音と共に紫色の発光する半透明の矩形が現れる。


俺達も数歩下がり、手頃な岩に俺が腰掛け、アスナはその隣の芝生に腰を落ち着けた。


すると、


「あれっ」


クラインの頓狂な声が響いた。


「なんだこりゃ。……ログアウトボタンがねぇよ」


その一言に俺はクラインを見る。


「ボタンがないって……そんなわけないだろ。ちゃんと見ろよ」


もう一度ウインドウを確認するクラインを見ながら、一応自分のウインドウを出しておく。


「やっぱどこにもねぇよ。おめぇらも見てみろって」


「だから、んなわけないって……」


「……えっ?」


隣のアスナが固まる。それは俺もだ。


メニューのどこにもログアウトボタンがない事に驚く。


「……ねぇだろ?」


「…ないです」


「ないな。バグか?」


「ま、今日は正式サービス初日だからな。こんなバグも出るだろ…今頃、GM(ゲームマスター)は半泣きだぜぇ…ははっ」


「「お前もな/クラインさんもね」」


そのクラインの言葉に俺とアスナは真面目にツッコんだ。


「へ?」


クラインは素っ頓狂な声を上げた。


「今の時刻は5時25分ですけど…」


「クライン…ピザ頼んでんだろ?」


ピキッ


クラインが固まる音がし、顔を変え、頭を抱えた。


「オレ様の【テリヤキピザ】と【ジンジャーエール】がぁぁぁぁ!!」


そんなクラインの心の叫びは無視して、アスナは声を上げた。


「GMにコールしたらどうですか?」


そう言うと、クラインは顔を戻して、自分のメインメニューを指さして答えた。


「いや、とっくに試したんだけど、反応ねぇんだよ……他にログアウトの方法ってなかったっけ?」


アスナは私は知りませんと言い、俺は、


「いいや。マニュアルにもそんなのは書かれていないし、他の方法なんて聞いた事ない」


「んなバカな……ぜってぇ何かあるって!…戻れ!ログアウト!脱出!!」


俺とアスナの回答を拒否するかのように喚くクラインは、尚もあれこれ唱えているが、何も起こらない。


SAOにはボイスコマンドは実装されていないからだ。


しまいにはぴょんぴょんジャンプまでし始めたクラインに、俺は声をかけた。


「何をしても無駄だよクライン。マニュアルにも、その手の緊急切断方法は一切載っていなかったんだ」


「でもよ……だって、馬鹿げてるだろ!いくらバグったって、自分の部屋に……自分の体に、自分の意志で戻れないなんてよ!」


呆然としたクラインが叫んだ。


すると、クラインは何か閃いたのか言う。


「頭からナーヴギアを引っぺがすか!!」


ズルッと転びそうになりながら、俺はそんなクラインに答えた。


「無駄だ。俺達は今、現実の体を動かせないんだ。ナーヴギアがオレ達の脳から体に出力される信号を全部ここで」


俺は首の後ろ…脊髄のあたりに指を当てた。


「遮断している」


その言葉にクラインの顔は再び絶望の色に染まった。


「マジかよ……じゃぁ、バグが直るのを待つしかねぇのか…」


「もしくは、現実世界の誰かが、俺達の頭からナーヴギアを外してくれるまでだ」


そのクラインの言葉に俺が簡潔に説明した。


「でも、俺1人暮らしだぞ……お前等は?」


クラインがそう聞いてきた。


「私の家は今、私1人です。少し前までお母さんと兄さんがいたけど…」


「俺の家はメイドがいるけど……」


「メイド!?お前の内は金持ちなのか?」


「…まあそうだけど」


それよりも…問題なのは…


「そんな事より、なんか変だと思わないか?」


「そりゃぁ、変だろうさ、バグなんだしさ……」


俺の質問に、クラインは静かに答えた。


「ただのバグじゃない…≪ログアウトできない≫なんて今後のゲーム運営にかかわる大問題だ。オンラインゲームなんだぜ?」


「言われてみれば、たしかに……」


俺の説明に、少しだけクラインも納得した。


そんなクラインに少しだけアスナはイジワルを言う。


「こうしてる間にも、クラインさんが頼んであるピザは刻一刻と冷めて、ジンジャーエールも温まっていくのね」


「冷めたピッツァと温まったジンジャーエールなんて……ねばらない納豆と炭酸の無いコーラ以下だぜ……」


意味不明なクラインの呻きを黙殺しつつ、俺は言う。


「この状況なら、運営側は一度サーバーを停止させて、強制的にプレイヤーをログアウトさせればいい。それが当然の措置だ。なのに、俺達がバグに気付いてからもう15分は経っている。運営のアナウンスが入っていてもおかしくないだろう?」


「む、言われてみりゃ確かにな。」


ようやく真剣味の増した表情をしたクラウンが、ごしっと顎をこすった。


「……SAOの開発運営元の(アーガス)と言やぁ、ユーザー重視な姿勢で名前を売ってきたゲーム会社だろ。そ
の信用があっから、初めてリリースするネットゲームでもあんな争奪戦になったんだ。
なのに、初日にこんなでけぇポカやっちゃ意味ねぇぜ」


「まったく同意する。それに、SAOはVRMMOってジャンルの先駆けでもあるしな。ここで問題起こしたら、ジャンルそのものが規制されかねないぞ」


俺とクラインの話に全くついていけないアスナは頬を膨らませて俺を睨む。


時間がどんどん過ぎていったため、夕焼けを見て俺達は綺麗だな〜と思っていた。


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