小説『ソードアートオンライン〜2つのスキルを持つ蒼の剣士〜』
作者:レイフォン()

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第3話 悪夢のはじまり


リンゴーン、リンゴーンと鐘の音が響く。


警告のようなその大ボリュームのサウンドは、俺達にも届き、俺・アスナ・クラインは飛び上がる。


「…えっ!?」


「何だ!?」


「何だこれは!」


驚いている俺達であったが、青い光に包まれ、同時に草原の景色が消え、青い光が薄まると、風景が戻った……が、そこはすでに夕暮れの草原ではなく、広大な石畳や周囲を囲む街路樹、瀟洒な中世風を基調とする街並みと、黒光りする巨大な宮殿がある場所。


ここは……


「おいおい、何でいきなりはじまりの町の中央広場!?」


そう、ゲームのスタート地点である(はじまりの街)にある中央広場だった。


そこには他のプレイヤーも集められているようで、アスナとクラインが俺の両隣にいた。


俺達に続くように次々と青い光に包まれたプレイヤー達が集まってきている。これはどう見ても


「強制テレポートだと?」


そして、鐘の音が鳴り止んだ。そして、辺りのざわめきだけが残った。


人々が戸惑う中……誰かが


「あ……上……」


と声を上げ、広場に集まった俺達プエイヤーは上を見る。


すると、約100mほど上空の第2層の底を、真紅の市松模様が埋め尽くしていた。


よく見れば、市松模様のひとつずつに同じ単語が綴られている。


【Warning System Announcement】


アナウンスを知らせるその単語に気付いたものは何人居ただろうか。


少なくともアスナやクラインは気付いているようで、肩の力を抜きかけていた。


周りも気付いたものに促されたのか、徐々にざわめきが終息していく。


しかし、続いた現象は、俺の…いや俺達の予想を大きく裏切った。


空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部分が、まるで巨大な血液の雫のようにドロリと垂れ下がり、高い粘度を感じさせる動きでゆっくりとしたたった。だが、地面に落ちる事は無く、赤い液体は空中でその形を変えた。


出現した真紅のフード付きのローブをまとった巨大な人。いや、正確には下からフードの中身を見たところ、顔がなかったので、人ではない。


人の形をした何かは周りがざわめくのを抑えるかのように、白い手袋がはめられた腕を広げた。


【プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。】


低く、落ち着いた、よく通る男の声は遥か高みから降り注ぐ。


【私の名前は茅場 晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。】


「なに……?」


驚き、声を漏らすとアスナが震えながら俺の手を握ってきた。
俺はアスナを見るとアスナの表情が不安に満ちていた。そんなアスナの手を俺は強く握る。


にしても…まさか、茅場 晶彦が出てくるとは。


ーーー茅場 晶彦。


彼の名を知らない者はこのゲーム内にいないだろう。


数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社のひとつだったアーガスが、最大手と呼ばれるまでに成長した原因は、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者の茅場 晶彦がこのSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるからだ。


彼のような人物に憧れを抱く人間は少なくともいるだろう。そう言った人物達はショックかもな。


「本物かよ…」


「ずいぶん、手こんでるな」


呑気な声がそこらへんから聞こえた。


まあ、彼が出てきたのにも驚くだろうがな。


そして、茅場 晶彦は言葉を続けた。


【プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、(ソードアート・オンライン)本来の仕様である。】


「し、仕様」


クラインが割れた声でささやいた。


その語尾に被さるように、滑らかな低音のアナウンスは続いていく。


【諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合ーーナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊かし、生命活動を停止させる】


ピキッ


茅場 晶彦の言った事に広場にいる俺を含める全てのプレイヤー達が凍りついたのがわかった。


脳を破壊……それは、つまり【殺す】ということだ。


「何言ってんだ、あいつ?頭、おかしいんじゃね?なぁ、レン、アスナ」


クラインにそう聞かれたが、俺は冷静に考えいていた。


ナーヴギアとは、ヘルメット内部に埋め込まれた無数の信号素子から微弱な電磁波を発生させ、脳細胞そのものに疑似的感覚信号を与える装置だ。


まさに、最先端のウルトラテクノロジー……と言えるが、原理的にはそれと全く同じ家電製品が、40年も前から日本の家庭で使われている。


それは……電子レンジだ。十分な出力さえあれば、ナーヴギアはオレ達の脳細胞中の水分を高速震動させ、摩擦熱によって蒸し焼きにする事が可能だ。


と言う事は…


「信号素子のマイクロウェーブはたしかに電子レンジと同じだ……つまり、リミッターさえ外せば、脳を焼くことも……」


俺はクラインの問いにそう答えた。


「じゃあよ、電源を抜けば……」


その問いにアスナが簡潔に答えた。


「クラインさん。確かナーヴギアには内臓バッテリーがあるはずじゃ…」


その言葉にクラインは半歩後ずさった。


「で、でも、ムチャクチャだろう!なんなんだよ!」


クラインがそう叫んだ途端、茅場 晶彦の言葉が続いた。


【残念ながら、現時点で、プレイヤーの家族、友人等が警告を無視し、ナーヴギアの強制的に解除しようとした例が少なからずあり、その結果……213名のプレイヤーが、アインクラッドおよび現実世界からも永久退場している】


「213名…だって!?」


「信じねぇ…信じねぇぞオレは」


周りからも信じられないと言う声が聞こえ、茅場 晶彦は聞こえていたのか彼の周りからメディアによって伝えられるニュース等の画面がいくつか表示された。


その中には


『オンラインゲーム事件 被害者続々と』


等と書かれたものがあり、事件が起きたであろう家も表示されていた。


中には、おそらくナーヴギアを外してしまった事によって自分の家族を殺めてしまったらしい学生が泣き、親になぐさめているシーンも見えた。


【ご覧のとおり、多数の死者が出た事を含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、すでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君は…安心してゲーム攻略に励んでほしい】


「…」


俺は静かにそれを聴く。手を握っているアスナの手が震えているのにも気づく。


【しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間諸君らのアバターは永久に消滅し、同時にーーー諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される】


茅場 晶彦の声が響く。


【諸君らが解放される条件は、ただ1つ。このゲームをクリアすることだ……現在、君達がいるのは、アインクラッド第1層。各フロアの迷宮区を攻略しフロアボスを倒せば、上の階に進める。第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ】


「クリア?」


「どういうこと?」


「て、適当なこと言ってんじゃねぇよ!」


等の声が辺りから響く。


「クリア、第100層だとぉ?できるわけねぇだろう。βテストじゃろくに上がれなかったんだろう!」


クラインの声が隣から聞こえた。


【それでは、最後に、諸君らにとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え】


俺達はそれを聞き、メインメニューからアイテムストレージを見て、茅場 晶彦からのプレゼントを手にとった。


アイテム名は(手鏡)ーーー


その鏡に自分を移すと、鏡から発せられた光に包まれて、私たちは本来の姿を取り戻すという優れ(?)ものだ。


周りのプレイヤーが次々光に包まれていく中、私も鏡に目を移した。途端に、光がアバターを包み込み、視界がホワイトアウトする。


俺とアスナは見合い、特に変わらないが、クラインは若侍から野武士に姿を変え、切れ長だった目元はぎょろりとした金壺眼に。細く通った鼻梁は長い鷲鼻に。そして頬と顎には無精髭というオプションつきで。


「「お前/あなた…誰?」」


「いや、おめぇらこそ誰だよ」


そう言いながら手鏡でクラインは自分の顔をのぞく。


「うおっ…………オレじゃん………」


俺とアスナはクライン?を、クライン?は俺達を見ながら言う。


「お前がクラインか!?」


「あなたがクライン!?」


「おめぇらがレンとアスナか!?…って、よく見たら変って無いじゃん」


「ま、まあな。俺達はリアルにそっくりにキャラ作成したし」


「そ、そうね…」


そう言いながら俺達は周りを見る。男女の比率が明らかにおかしい。美男美女の群れも一気に崩れている。


むさ苦しい上に、女性比率が少ない。


「そうか!わかったぞ!ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆っている。
つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握できるんだ……」


「で、でもよ。身長とか……体格はどうなんだよ」


「それなら、ナーヴギアの本体を買って装着した時にキャリブレーションで体を触っただろう?
あれは装着者の体表感覚を再現するためのものだから、自分のリアルな体格をナーヴギア内にデータ化することができる筈だ」


「あ、ああ……そうか、そういうことか……」


クラインはまた考え始めているのか、手を口に当てている。


そして、現実の姿をそのまま詳細に再現した理由も意図も理解したのだろう。


「……現実。あいつはさっきそう言った。これは現実だと。
このポリゴンのアバターと……数値化されたヒットポイントは、両方本物の体であり、命なんだと。
それを強制的に認識させるために、茅場は俺たちの現実そのままの顔と体を再現したんだ……」


「でも……でもよぉ、レン」


がりがりと頭を掻き、バンダナの下にあるぎょろりとした両眼を光らせ、クラインは叫んだ。


「なんでだ!?そもそも、なんでこんなことを………!?」


そう、俺に聞くクラインに言う。


「それは…こんな事をしでかした張本人が言うだろ」


茅場 晶彦を指差し言う。


【諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ、ソードアート・オンラインおよびナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?……私の目的はすでに達せられている。この世界を創り出し、鑑賞するために私はソードアート・オンラインを作った…】


「茅場 晶彦!貴様…そんな事のため俺達を…この世界に閉じ込めるのか!ふざけるな!」


俺は大声で言うと隣にいたクラインは驚き、俺を見ている。


茅場 晶彦は一瞬、俺を見るそぶりをする。が、俺の問いには答えない。


【……以上で(ソードアート・オンライン)正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君のーー健闘を祈る】


最後の一言が、残響を引き消えた。


真紅の巨大なローブ姿が音もなく上昇し、フードの先端から空を埋めるシステムメッセージに溶け込むように同化していく。


肩が、胸が、そして両手と足が血の色の水面に沈み、最後にひとつだけ波紋が広がった。


直後、天空一面に並ぶメッセージも現れた時と同じ様に唐突に消滅した。


広場の上空を吹き過ぎる風鳴り、NPCの楽団が演奏する市街地のBGMが遠くけら近づいて来て、穏やかに聴覚を揺らす。


ゲームは再度、本来の姿を取り戻していた。


幾つかのルールを変えて。


そして、何かが落ち、砕け散る音が聞こえた。


誰かが、茅場からのプレゼント…手鏡を落とした音だ。


そして、それに続いて…何かのような声がかすかに聞こえた。


「ぃ…いやぁ!」


その言葉で、ようやく、1万のプレイヤーが然しかるべき反応を見せた。


すなわち…圧倒的音量で放たれた多重の音声が広大な広場をビリビリと震わせたのだ。


「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」


「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」


「こんなの困る!この後約束があるのよ!」


「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」


悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願。そして咆哮。


無理もない。たった数10分でゲームプレイヤーから囚人へと変えられてしまったのだから。


無数の叫び声を聞きながら、俺は手を握っているアスナとポカーンとしているクラインの肩を掴み、一旦広場から離れる。


「2人とも、こい!」


「レ、レン!?」


「ぇ……ぉぉ…!」


広場から広がる幾つもの街路の1本に入り、立ち止った。


「あそこにいたらプレイヤー達の並みに飲まれる。一旦、落ち着いてから行動を開始しよう」


俺はそれとっと言いながら第1層のマップを出したりしてクラインにできるだけ分かりやすく説明する。


「メル友の情報によればここの、はじまりの街周辺のフィールドはすぐに狩りつくされるだろう。効率よく稼ぐためには、今の内に次の村を拠点にした方がいい。教えてもらっている俺は道も危険なポイントも全部知ってるからレベル1の今でも安全に辿りつける。クライン、もし他の友達と一緒に行動をするならそいつらにも教えてやれ」


そういいながら俺はクラインにマップのデータを渡す。この(はじまりの街)から、次の村までを記した地図だ。そこには危険なポイントと安全に村まで辿り着ける道が記してある。俺がメル友に教えてもらったのを覚えていたので記した。


「あ、ああ。オリャ、他のゲームでダチだった奴と徹夜で並んでこのソフトを買ったんだ。アイツ等…広場にいるはずなんだ……情報、サンキューな」


「いや、気にしないでくれ」


礼を言われたか。俺はただ教えてもらったことを教えただけなのに。


「じゃあ、俺…あいつらを探してくる。じゃあぁ!お前等!生き残ってくれよ!俺がここで最初に出来た友よ!」


そう言いながらクラインはこの場から離れた。


すると、


「ねぇ…レン」


ギュゥー


俺と握っていた手を強く握るアスナ。


アスナの表情を見れば明らかに混乱していた。…いや、錯乱しかけていた。


「アスナ、まずは落ち着け」


「ねぇ、レン。あの人が言ってたことは嘘だよね?きっとすぐにログアウトできるよね?」


「アスナ…」


「だってこの後、6時までに食事の席に着かないといけないし…」


「アスナ」


「それに、そんな確証なんて…「アスナ!」…!」


強めに発せられた俺の声に、アスナはビクッと体を震わせた。


そして、少しずつ瞳に涙がたまり…


「レン…!」


アスナは俺の服を掴みながら、泣き出すのだった。










俺はこんな状態のアスナを連れてフィールドに2人で出るのはかなり危険だと思い、アスナを一旦、宿へと向かい、部屋を2つ取ろうとしたら


「お願い…1人は…いや…」


と言うので、同じ部屋を取り、アスナをベットに寝かせるまで手を握った。


そして、この世界の空を窓から眺めた。


「……こんな事になるとは…浩一郎さんもこの事を知ったら…」


きっと俺達を心配しているだろうな。










〜その頃、浩一郎は〜


ガタッ


出張先の職場でニュースを見ていた浩一郎はニュースの内容に驚き、立ちあがっていた。


「明日奈…錬君…!(頼む錬君…明日奈を頼む!)」


2人の事を心配していたのだった。








〜戻ってレンSIDE〜


寝たアスナを見て、俺は宿を出てフィールドに出ている。どうやらこの時間帯は他のプレイヤー達はいないようだ。それもそうだ。この時間帯はモンスターの数とかも増えると聞いたしな。


シュゥン


案の定、モンスターが一気に3体出てきた。


シャキン


俺は剣を抜き、構える。


「さぁ、朝まで時間があるんだ。とことん、相手をしてやるよ…」


「ぶひぃ!」


青イノシシ達が俺に突っ込んでくる。


「うぉおおおおおおお!」


片手用直剣基本技:スラントで切り裂く。


「ぶきゃー!」


悲鳴を上げながら消え去るイノシシ。


周りを見るとドッグやバード、ウルフなどがどんどんこちらに来ている。回復ポーションも町から出る前に買ったし……何とかする!


「かかってこいやああああああああ!」


俺はアスナを守る。あんなに泣いたアスナは久しぶりに見た。
浩一郎さんにもアスナのことは頼まれているんだ!俺は……強くなってアスナを……守り抜く!








俺は生きるんだ…アスナと共に!

















――――――――――――――



この小説を読んでいただきありがとうございます!
今更ですが、この二次小説は原作とアニメを読む・見るをしながら書いています。
なので、原作にはない文章などもあるかもしれませんが、そこは気にしないで頂ければありがたいです!
まぁ、大半は原作を基準ですがね。
これからもよろしくお願いします。

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