第40話 絶望がお前達のゴールだ
〜レンSIDE〜
「さて、目的の物を手に入れられて良かったな」
「はい!こ、これでピナを生き返らせられるんですね?」
「ああ。その花の滴を形見アイテムに振りかければ、戻るらしい。ここでやってもモンスターがいるし、危ないからな。宿に戻ってからゆっくりとやればいいだろう」
「はい!」
シリカ的にはすぐにでもピナに会いたいのだろうが……危ないからな。
ここは我慢してもらうしかない。
シリカがプネウマの花をアイテム欄に仕舞うのを見ると来た道を戻り始める。
帰り道、来る時にモンスターを狩ったせいかモンスターが殆どエンカウントしなかった。
それにシリカはアイテムを手に入れたせいか足取りがkるう時よりも早い。
ほどなくして麓まで戻ってこれた。後は街道を抜け、街に戻れるだけなのだが……
「やっぱり、か」
索敵スキルに複数のプレイヤー反応を察知した。まあ、これは昨日の夜である程度は予想ついていたから驚きはしないが……ここまで予想通りだと逆に呆れる。数時間以上時間があったんだ。俺の事を調べればいいのに。
「どうかしたんですか?レンさん」
「ん?うーん……何て説明すればいいのやら。そこで待っててくれ」
俺はシリカの前を歩きだし、橋の真ん中から声を上げる。
「いい加減、出て来いよ。隠れているのは分かっているぞ」
「ふぇ?レンさん、何を言っているんで……」
「出てこないなら……」
エミシュレーダーを構え、ソードスキル:ブレイブスラッシュ、斬撃を飛ばす技を木々が並ぶ地面に放つ。
ザシュゥゥゥン!
煙が舞い、煙の中から
「ゴホゴホッ!な、何なのよ!」
「ロ、ロザリアさん!?……何でこんな所にいるんですか!?」
咳をしながら出てくるロザリアと複数のプレイヤー達。
昨日あったロザリアはシリカを一度見た後、俺の事を睨んできた。
「よくもやってくれたわね、あんたの索敵スキルは認めるけど、あんたにはマナーってものが無いのかしら?」
「人の後をついてきていた奴に言われてもな。特にオレンジの奴に(ボソッ)」
おさらいをするが、オレンジとはオレンジギルドやオレンジプレイヤーを主に指す言葉で、システム上の罪を犯したものがなるカーソルの色からそう呼ばれている。殺して場合もオレンジだ。
「その様子だとし、首尾よくをゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」
シリカがロザリアの真意がつかめず、数歩後ずさる。すぐにロザリアが続けた。
「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」
「……!?な……何を言ってるの……」
驚くシリカの頭をぽんぽんと軽く叩き、シリカを背中の後ろに隠す。
「いきなりそれはないんじゃないか?オレンジギルド『タイタンズハンド』のリーダー。ロザリア」
「!?」
俺がそう言うと驚きの表情を見せるロザリア。
「え、でも……だって……ロザリアさんは……」
「残念ながら、オレンジギルド=全員がオレンジプレイヤーって方程式は今じゃ間違いなんだ。グリーンの奴が街で獲物を見つけ、パーティに紛れ込んで待ち伏せポイントに誘導をする。これが今じゃこういう連中の常套手段だ。覚えておいて損はないぞシリカ」
「あ、は、はい!」
俺は昨日の事も言う。
「昨日、話を盗み聞きしてたのも奴等の仲間だ」
「あ、あの時の?」
「ああ」
よくもまあ、こんなくだらない事をしているなこいつ等は。
「じゃ……じゃあ、この二週間同じパーティに居たのも……」
恐怖を抱いたシリカの顔に満足気で、そして毒々しい笑みをロザリアは浮かべると、楽しむように語り始めた。
あのパーティに居たのは戦力を図ると同時に冒険で金品が溜まるのを待つため立ったこと。本当ならば今日にもあのパーティを襲撃する予定だったがシリカが狙い目だったがパーティーを抜け、見つけた時には俺と一緒にいたからやめたということ。そして、今日襲ってきたのは高額で売れるを取りに行く事を知ったから俺達をターゲットにしたと言う事だ。
「でも────」
一度言葉を切ったロザリアは、これまでの何処か喜々とした様子では無く、何処かおかしな物を見る様な目で俺を見て、肩をすくめた。
「そこのお兄さん、そこまで分かってながらノコノコその子に付き合うとか、馬鹿?アホ?それとも本当に身体でたらしこまれちゃったの?」
「なっ!?」
後ろにいるシリカが顔を真っ赤にしたのがわかる。そして、短剣を抜こうとするのも分かったので、俺が止める。
「アホぬかせ。お前等の仲間と一緒にすんじゃねぇよ。年下に手を出すかアホが」
どういう目で俺を見ているのかこの女の目を分析したいぐらいだ。いや、目と言うより頭か。
「それに俺がシリカと一緒にいたのは……お前達を探すこともあったからさ」
「……どういうことかしら?」
「お前等、十日前に『シルバーフラグス』と言うギルドを襲ったな?リーダー以外の4人が殺された」
「あ〜あの貧乏な連中ね」
……この女。何ともなさそうな表情をしているな。
「リーダーである男は最前線の階層で泣きながら仇打ちを頼みこんでいた。彼はお前等を殺せってわけでもなく、牢獄に入れてくれって言っていた。お前等と同類にはなりたくないってさ!」
「同類……ねぇ」
嬉しそうにしている顔もムカツクな。
「お前等に彼の心境が分かるか?」
「わかんないわよ。マジになってバッカみたい。ここで人を殺したってほんとにその人が死ぬ根拠無いし。そんなんで現実に戻った時、罪になるわけないし。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ。笑っちゃうわよね。それに自分達の心配でもしたらどう?こっちは10人近くいるのよ?」
ロザリアが言うと全員が武器を構えた。
「レ、レンさん……数が多すぎます、脱出しないと……!」
「たった10人でいいのか」
「え?」
「下がってなシリカ。転移結晶準備しときな」
俺は剣を構え、歩き出す。
「レ、レンさん!?」
俺の名が響く。
「レン……?」
すると賊共の中の1人が何かを思い出すように視線をさまよわせ始めた。
「蒼いコートに蒼い刀身で盾なしの片手剣。そして≪レン≫……?」
急激に男の顔から血の気が失せ、数歩後ずさり始める。
「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ……≪レン≫だ。あの……最強ギルドの1つ『蒼光の軍勢』のリーダー……蒼の剣士・レンだよ!」
その言葉を聞いた瞬間、ロザリアを含む周りの賊共の顔が一斉に蒼白になる。驚愕したのはシリカも同じだ。後ろで俺の事を見ているのが分かる。
まあ、最前線で俺達の名前を知らない奴はいない。特にうちのギルドのメンバーの名前は広まっている。1人1人のレベルが高いからな。その中でも俺とアスナが一番有名だろう。
中層プレイヤー達は俺の事をそんなに知らないのは上にこないからだろう。攻略しようと思わず、そういった情報を入手しないのがほとんどだ。現にシリカも今まで気づかなかったしな。
「こ、攻略組がこんなとこをうろうろしてるわけないじゃない!」
「なら、このマークには見覚えないのか?」
そう言いながら武器に描かれているギルドマークを見せる。
すると俺の事を話した賊があわあわし始める。
「ま、間違いない。『蒼光の軍勢』のギルドマークだ!」
「ろ、ロザリアさん……やっぱり、本物なんじゃ……」
「そ、そんな訳ないだろ!どうせ、名前を騙ってビビらせようってコスプレ野郎に決まってるわよ。それに──もし本当にだとしても、この人数でかかれば一人くらい余裕よ!!」
ロザリアがそう言うと周りにいた賊共が目の色を変えた。そして、数名がいい始めた。
「そ、そうだよ!こいつ……攻略組のトップギルドのリーダーなら、すげえ金とレアアイテムを沢山持っているはずだ!こいつを殺せばいいもんが大量だぜ!」
「そうだな!やろう!」
そういい、俺に向かってくる賊共と書いてバカ共。
「レ、レンさん……」
不安そうな声を上げるシリカ。
「安心しな。そこで見ているんだシリカ」
「は、はい!」
俺の言う事に素直に返事するシリカ。うんうん、素直な子は好きだぞ?無論、一番はアスナだがな。
俺は歩くゆっくりと。そんな俺に迫るバカ共。
「オラァァァ!」
「死ねやァァァ!!」
「ヒャッハーァ!」
「サーチ&デストロイ!」
俺の身体を槍・斧・剣などが貫いたり斬られたりしている。後ろにいるシリカを横眼で見ると目を閉じていた。
だが、次第にバカ共が焦り出す声が聞こえたのか再び目を開けて俺を見ると驚いていた。
いや、正確に言えば減っていくHPが回復しているのに驚いているんだろうな。
『ぜぇぜぇ!はぁはぁ!』
「あんたら何やってんだ!さっさと殺しな!」
「……10秒当たり、150ってところか。それがお前等が俺に与えられたダメージの総量だ」
「くっ!」
「俺のレベルは97。HPは17,900。バトルヒーリングスキルによって10秒に付き、970程回復する。例え、10年攻撃し続けても永遠に俺を倒すことはできない」
「そんなの……そんなのありかよ……。ムチャクチャじゃねぇかよ……」
「ありなんだよ。数字が変わるだけで理不尽なほど差が付いていく。こんなのはレベル性のMMOじゃ常識だろ。お前達が優越感に浸かっている間、俺達攻略組はクリアを目指し、頑張っている。努力する・しない人間との差はどんどん広がっていく。これがお前等と俺の差だ」
「チッ!」
ロザリアが舌打ちすると同時に懐から転移結晶を取り出した。
「転――」
バシュン!パリィィィン!
「移……!?」
手の中にあった転移結晶が破壊された事に驚き、声を上げられないロザリア。
「そして、これがお前等と俺達の“ホントの戦力差だ”」
ザザ
木々の影から次々に現れるプレイヤー達。
「なっ―――!?」
「こ、こいつらは……」
「嘘……でしょ!?」
ロザリア達の目に絶望が浮かんでいる。そのわけとは……
「レン。皆……とはいかないけど、集合したよ」
俺の隣に現れたのは―――俺の愛する妻、アスナだ。
「し、白き閃光・アスナ……『蒼光の軍勢』の副リーダー……」
アスナを見て再び驚くバカ共。
「そして――これで詰みだ」
ザン!ザシュン!パリィィィィン!
アスナを含む俺の仲間達が姿を消すとロザリアを含む11人の持つ武器が全て破壊された。
「嘘―――」
ペタンと地面に座り込むロザリア。
「さて、最後の仕事と行こうか」
俺は懐から回廊結晶を取り出す。
「コリドー・オープン」
掲げられた濃紺の結晶が小さな音を立てて砕け散り、目の前に青い光の渦の様な物が出現する。
「あ、あたしを好きにしていい!だから……監獄送りは!?」
俺に命乞いみたいなことを言うロザリア。隣に立つアスナが呆れた風にロザリアを見る。
「いい言葉をお前等に送ろう。絶望がお前等のゴールだ」
俺はロザリアの袖を掴み、渦へと投げた。
「助け――」
「やめっ!」
「くそぉぉ!」
俺によって次々に監獄に送られるオレンジギルド『タイタンズハンド』はこの日をもって壊滅した。
「すまなかったなシリカ」
「えっ?」
全てが終わって俺はシリカに謝っていた。訳は……奴等を探し、監獄送りするためにシリカに近づいていたことだ。
「そんな…あたし、怒ってもいませんよ?レンさんのおかげでピナを蘇らせることができるんですから!」
笑顔でこんな事を言うシリカを見て、
「ああぁん!この子、可愛いわね!」
ギュゥゥゥゥ!」
「きゃっ!ア、アスナさん!?」
「妹に欲しいわ!」
頬をスリスリするアスナ。顔を真っ赤にするシリカ。
「さて、宿に帰ろうかシリカ」
「はい!」
ピナ復活のために俺達は宿へと戻るのだった。
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次回でシリカ編は終了となると思います。
タイトルは仮面ライダーWに出てくる仮面ライダーアクセルこと照井竜の名セリフです。
このセリフは好きです。翔太郎とフィリップ、おやっさんの「さあ、お前の罪を数えろ」も好きなセリフの一つです。