SIDEカイト
リンゴーン・・・・リンゴーン・・・・・
という音と同時に俺たちは青い光に包まれた。
≪転移≫という現象のときに出るライトエフェクトだ。
光が強くなり、再び目を開けたときに広がっていた光景は夕焼けの草原ではなかった。
転移した先、そこは・・・・・
「はじまりの街か?」
俺が一人呟いた。
なぜこんな所に強制転送されたのかは分からないが、おそらく運営側からの知らせか何かだろう。
そう勝手に結論付けて、俺は辺りを見回した。
キリトたちを含む数千人――おそらく今ログインしているであろう約一万人の人たちがココに集まっていた。
「どうなってるの?」「これで出られるのか?」「早くしてくれよ」という言葉から
「ふざけんなよ!」「GMでてこい」という喚き声まで聞こえてくる。
ふと、空を見上げてみると。
何か赤いものが空を覆い始めていた。
良く見てみると、【Warning】、そして【Systm Announcement】と書いてある。
『あぁ、ようやくか・・・・』という安心感のほかに、
『もう現実に戻らないといけないのか・・・・・』という気持ちが混ざり、なんともいえない心境だった。
居場所が無い現実世界。
今からそこに帰るのかと思うとすこし気分が暗くなった。
だが、俺の予想を大きく外れた現象が起きた。
―――どろり・・・
空の模様の中央部から急に血のような液体が垂れて来た。
「なんだありゃぁ・・・・・?」
クラインが呟く。
その液体は一定の高さまで垂れると急に形を変え始め、真紅のフードつきローブを着た男の姿になった。
「GM・・・・?」
誰かが呟いた。
だが、顔が無い。フードの中は俺たちからは丸見えのはずなのに・・・・・
そのフードの中の空虚な空間が俺たちの不安を煽る。
すると突然、GMであろう男が手を左右に広げ、口を開いた―――ように見えた。
『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ。』
男から発せられた声は低く、それでいてよく通るものだった
――――?≪私の世界≫?
確かにGMならこのゲームの神のような存在だが、いまさらそれを伝えてなにになるんだ?
ローブの男は広げた手を下ろしながら言葉を続けた。
『私の名前は茅場晶彦。いまやこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』
「なっ・・・・・!」
隣でキリトが驚いていた。かくゆう俺もひどく驚いているのだが・・・・
――――茅場 晶彦――――
つい最近までゲームには興味が無かった俺だが、彼の事は良く知っている。
小規模だったアーガスを最大手と呼ばれるまでに成長させた天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。
ナーヴギアの基本設計なんかも手がけていたらしい。
でも彼は、メディアへの露出を極力避け、裏方に徹していたはず・・・・・
なぜ今になってこんな真似を?
フードの男――茅場晶彦――の言葉は止まらない
『君たちはすでにメニューからログアウトボタンが消えている事に気が付いているだろう。
しかしこれは不具合ではなく≪ソードアート・オンライン≫本来の使用である』
「は・・・・?本来の仕様、だと・・・・?」
クラインが掠れた声でささやいた。
その語尾に重ねるように茅場のアナウンスは続いた。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない。』
この城――というのはおそらく≪アインクラッド≫のことだろう。
つまり、百層を攻略しなければ出ることが出来ない―――ということだ。
俺は最初からそのつもりだし、何より出られないのなら、もっと友達が増える。
そう思っていたのだが、つぎの言葉でいろいろと吹き飛んでしまった。
『――また、外部からの救助にはありえない。もしそれが試みられた場合―――』
わずかな間。
ここにいる人たちが息を詰めた。重苦しい静寂の中、その言葉は発せられた。
『ナーヴギアの信号素子が発するマイクロウェーブが諸君らの脳を破壊、生命活動を停止しさせる。』
なっ・・・・!
確かに原理としてはありえなくは無い。実際に電子レンジとナーヴギアの原理は同じだ。
出力さえあれば人の脳を壊すことは容易いのだがいったいドコから・・・・
・・・・・・あっ!確かナーヴギアの重量の約三割がバッテリセルだってはず・・・・
それなら出力的にも問題は無いな・・・・・だが
「そ、そんなの瞬間停電でもあったらどうすんだよ!!」
俺は思わず叫んでしまった。
電気供給が止まったら破壊される仕組みならそれでみんなの脳はチンされてしまう。
だが、その不安は無かった。
『より具体的には十分間の外部電源の切断、二時間のネットワーク切断、ナーヴギアのロック解除及び破壊や分解の試みのいずれかが満たされた瞬間君たちの脳は破壊される。』
しかも、と茅場は続ける
『この条件はマスコミを通じて告知されている。ちなみに現時点で警告を無視した家族等が強制的に覚醒させようとして・・・・』
そこで彼は一呼吸いれ、
『すでに二百三十名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している。』
―――っ!?なんだって!?
じゃあ本当に・・・・・・
ほとんどのプレイヤーは信じていられないみたいだが、俺は違った。
もとより現実に興味は無い。
ココをもうひとつの、俺が俺らしく居られる居場所にしようとしてSAOを買ったんだ。
死ねない状況はリアリティがましてむしろ好都合―――とさえ思っていた。
周りでは「こんなのもうゲームじゃないじゃないか!」と叫ぶ声がする。
まるでその声が聞こえたかのように、茅場は言葉を発した。
『しかし、充分に留意してもらいたい。君たちにとってココはただのゲームではない。
言ったであろう?――これはゲームであって遊びではない――と』
茅場がそういって瞬間「ふざけるな!!信じねぇぞ!」などの罵声がとんだ
『では最後に君たちのアイテムストレージの中に私からのプレゼントがある。確認してくれ給え。』
俺たちはほぼ自動的にメニューを開き、アイテムを確認していた。
その中には・・・・・
「手鏡・・・・?」
俺はそれを出し手に持ってみた。
すると体が急に光だした。
光が収まり辺りの景色を見てもそこには広場があるだけだった。
ある変化を除いては・・・・
その変化とは・・・・・・
「お前・・・・・・・だれ?」
「お前こそ誰だよ?」
これはキリトとクラインの会話だ。
明らかに顔が変わっている。おそらくリアルでの顔なのだろう。
でも、キリトもクラインもかっこよく作りすぎだろ・・・・・・・
キリトはなんか可愛くなってるし、クラインは山賊みたいな顔になっている。
俺は、現実と同じように作ったから変わったのは髪形と声ぐらいだ。
おそらく、顔をすっぽり覆っているナーヴギアから顔の情報を、キャリブレーションで体格や身長をスキャンしたのだろう。
みんなが驚いていると、茅場が喋りだした。
『君たちは今、なぜ?と思っているだろう。べつに君たちを拉致監禁して身代金を要求することが目的ではない。
私の目的は、この世界の創造とその後の鑑賞。それだけだ。それも今達成せしめられた。』
短い間をおいて、茅場は再び喋りだした。
『以上で≪ソードアート・オンライン≫のブリーフィングを終わる。諸君らの健闘祈っているぞ。』
そういって茅場は姿を消した。
暫くの間。
そして・・・・
「嘘だろ・・・・なんだよこれ嘘だろ!?」
「いやあぁぁぁぁ!帰して!帰してよおぉぉぉ!!」
「こんなの困る!この後約束があるの!!」
「ふざけんな!ここから早く出せよ!!」
罵声。悲鳴。怒号。絶叫。懇願。そして咆哮。
様々な声が飛び交い
この≪ソードアート・オンライン≫はデスゲームへと姿を変えた。
SIDEキリト
・・・・・・・・・ふぅ・・・・・
俺は心の中でため息を吐きクラインとカイトを連れて広場から放射状に広がっている道に止まっていた馬車の陰に隠れた。
「いいか二人とも。俺は今から次の町に向かう。ココ周辺の狩場はすぐに狩り尽くされるだろうからな。
俺なら安全な道を知ってるしレベル1でも安全に次の街までいける。ついてくるか?」
二人を連れて行くのはちょっときついがカイトは俺が守らなくても充分強い。
俺が道案内をすればいいだろう。そう思っていた。
だが。
「・・・・・・悪いけどよぅ・・・俺はこのゲームを他の仲間と一緒に徹夜して並んで買ったんだ。そいつらを放っては置けねぇ。
だから、気持ちだけもらっとくよ。」
「・・・・・そうか・・・・カイトは?」
「俺も遠慮しておくよ。気になることもあるしね。」
気になること?まぁいいや。時間がない。
「そうか・・・・・・じゃあ仕方ないな。俺は行くよ・・・・・・二人とも、死ぬなよ・・・・?」
俺は二人に向けてそういった。
「はっ!おれぁこれでも前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ!お前のテクだけで何とかしてみせらぁ!」
「俺を誰だと思ってる。そう簡単に死ぬかよ。」
それだけ聞いて俺は二人に背を向けて次の街に向かった。
すると後ろから。
「キリトー!何か手伝えることがあったら言えよー!?」
カイトの声だ。
「おめぇリアルの顔のほうが可愛いじゃねぇか!俺の好みだぜ!」
クラインまで。
「クラインこそ!その野武士面のほうが十倍にあってるよ!カイトも!遠慮なんかせずに俺に頼めよ!」
それだけ言って今度こそ俺は次の町に向かった。
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あとがき
どうもクロコトです。
いやぁ、同時更新って疲れますね。
今のところは大丈夫ですが、後々辛くなってきそうです。
次回は、カイトが『猛獣使い』になるお話です。
では、「こんな使い魔良いんじゃねぇか?」とか「こんな武器とかどうよ?」とかありましたら
どんどんアイデアを下さい。
作者の頭は貧相な上に中二病なので・・・・
よろしくお願いします!!