「俺は嫌だ。お前と離れるなんて…考えたくねえ」
「直也…」
「そんなこと言うなよ…」
自分でも情けないと思うくらい、俺の口から出る言葉は弱々しかった。
だって考えたくなかったんだ、蒼がいない日常なんて。
俺が想像した蒼のいない世界は、とても明るいものではなかった。
今そうであるわけではないのに、頭の中にイメージするだけで胸が酷く苦しくなった。
蒼は苦しくならないというのだろうか、そう思うと俺は苦しさに加えて胸がズキズキ痛んだ。
「馬鹿、別に俺とお前の関係が変わるわけじゃねえだろ」
蒼は優しい笑みを浮かべ、俺の髪を優しく撫でる。
俺が少しでも弱いところを見せると、蒼はいつもこうやって俺を慰めてくれる。
小さい頃から変わらない。
「離れたってお前は俺の親友だし、それに今すぐ離れるわけじゃねえだろ。まだまだ先の話なんだから、そんなに思い詰めるな」
「…そうだな」
そうだ、何も今すぐではないのだ。
今はまだ蒼と一緒にいられる。
少し希望が戻った俺は表情を緩めていたのか、蒼は俺を見てよしよしと俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「元気出たようだな」
「おう」
「あんま考えすぎんなよ。でも俺離れできねえ間は、彼女ができても上手くいかねえだろうな」
「ああ?…まあ確かに」
にっと笑いながらからかうように言った蒼の言葉に少しかちんときたが、よく考えると蒼の言葉は正論なので納得した。
少し間を置いて、二人同時にぷっと噴き出す。
俺達の足は家に向かって再び歩き出し、この後に続いた会話に先ほどのような暗さはなくなっていた。
今はまだこんな風に蒼と家へ帰ったり、放課後にどこかへ出かけたり、どちらかの部屋でのんびり過ごすことができる。
いつかは無くなるのかもしれない、けれどまだ少しの間は、しばらくの間はこれが日常なのだ。
この日常が無くなるのは、まだ遠い未来に違いない。
ただそう、思っていた。