「なあ直也、お願いがあるんだけど」
「んー?」
俺が肘に顔を乗せて俊吾の方を見ると、俊吾の顔は何故か笑顔。
「実はさ、試験最終日の夜にN高の女子と合コンするんだ。今こっち側の人数が足りねえから、直也来てくんねえ?」
「…合コンかあ…」
高校に入学してから何度か体験した合コン。
確かにいろんな女の子と話せて楽しい。
いつもなら迷わず承諾するが、今回の俺はどうも乗り気じゃない。
その理由は、以前蒼と交わした会話にあった。
蒼に少し落ち着けと言われて以来、俺はなんだか付き合う気がなくなり、告白を全て断ってきている。
本当に左右されやすいというか、蒼の言葉に影響されやすいというか、そういう面では自分のことを少し情けなく思う。
だが蒼の言葉に俺も同感したのは事実なので、少し落ち着いてみることにしたのだ。
「…今回はパス」
「ええ!?お前いつもOKしてくれてたじゃんかあ」
俺の返事を聞いて、俊吾はがっかりとした表情をしながら机の上に項垂れた。
きっと俺なら絶対にOKすると思っていたんだろう。
「悪いな、薫が行けば?」
「俺はもう人数に数えられてるよ。嫌だって言ったのに」
「ええ、お前が合コン!?どんだけ必死なんだよ」
薫の言葉に次は俺が大袈裟なリアクションをとる。
薫は今まで誘いを全て断ってきたのだ。
まあ見た目からも分かるように、薫は合コンに行ったり女にがっついたりするタイプではない。
「お願いだよお、他にいねえんだよお」
顔を上げたかと思うと、顔の前で手を合わせて俊吾は目を潤ませながらお願いしてきた。
正直かわいい、だがつくっているのはわかっているから逆に鬱陶しい。
「い・や・で・す」
「ぬああああああ直也のばかあああああああ!」
「…どうしたんだ?」
子供みたいに叫ぶ直也の隣で薫が耳を塞いでいる。
この駄々っ子をどうしようかと考えていたら、少し開いた扉から蒼が顔を覗かせた。
部屋の外にも俊吾の声が聞こえていたのだろう、部屋に戻ってきた蒼は不思議そうな顔をしていた。
「こいつが合コンに来いってしつこいんだ」
「合コン?」
「人数が足りないんだ、ほんと頼むよお、直也」
まだしつこく俺を誘う俊吾。
蒼は誘わないようだ、まあ断られるのは明白なのだが。
男前な蒼が合コンに来てくれたらどんなに盛り上がるだろうと思い、最初の頃は何度か誘ったことがあるが、そのようなことが嫌いな蒼は一度も来ることはなかった。
だから俊吾も蒼は来ないと分かっているのだろう。
その時、いい案が浮かんだ。
「仕方ねえな…ただし条件がある」
「マジでか!なんだ!?」
「蒼も来ること。蒼が来ないなら、俺行かねえから」
「はあああ!?」
俺の言葉に目を輝かせた俊吾だが、次の瞬間には両手で頭を抱えながら叫んだ。
なんか今日の俊吾は、オーバーリアクションだ。
試験の疲れが脳細胞を蝕んでいるのだろうか。
俺がこう言った理由は、蒼を条件にすることで合コンに行く確立が低くなるためだ。
試験最終日なんて疲れているだろうから、俺はあまり行く気にはなれない。
しかし、もし蒼が合コンに行くなんていう事態になれば、それはそれで面白い。
疲れがどうとかに関わらず行きたい。