小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「何勝手に俺を取引に使ってるんだよ」

「そーうー、頼むー」

「ほら来た」


次は蒼におねだり攻撃を始めた俊吾。

蒼はうんざりとした顔で溜め息を吐く。

先ほどから黙っている薫はといえば、蒼が持ってきたオレンジジュースを静かに飲んでいた。

「嫌」

「お願い!」

「嫌」

「お願い!」

「いーやーだ」

「マジで頼むー!いつも来てくれる奴らがその日駄目なんだ」

「知らねえよ」

「他に頼める奴いないんだよお、お前が最後の砦なんだ!」

「え、何言ってんの?最後の希望とかじゃなくて?最後の砦?」


馬鹿だ、俊吾は馬鹿だ。

所々でそんなことを思うが、蒼の態度は断固として変わらない。

また同じようなやり取りが繰り返される。

お願い、嫌、お願い、嫌、お願い、嫌。

しばらくこのやり取りは続くだろうと思い、俺は少し眠ろうと瞼を閉じた。

お願い、嫌、お願い、嫌、お願い、嫌。

おねがい、いや、おねがい、いや、おねがい、いや。

確かに聞こえていた言葉は、やがて何かの呪文のように聞こえてくる。

そしてだんだんとその声は遠くなり、やがて俺の意識はまどろみの中へと溶けていった。





「…」


ゆらゆらと、ゆれる。

心地よい揺れだったが、次第に意識がはっきりとしていくにつれ、体を軽く揺すられているのだと気付く。

まだ閉じていたい瞼をゆっくりと上げると、目の前には少し呆れた、でも優しそうな笑みを浮かべた蒼の顔があった。


「直也…」

「ん、……そう?」


自分の口から零れた声は締まりがなく、妙に上擦っている。

眠いんだ、とすぐに分かるようなそんな声。

そんな俺に苦笑いを零し、蒼は俺の頭を撫でる。


「もう夜。俊吾も薫も帰った」

「マジでか。…って、俺どんだけ寝てた?」


蒼の優しい手にまた眠気を誘われる中、どうやら俺は少し寝るどころかかなり寝てしまっていたということを薄っすらと認識する。

その途端、やってしまった、と自己嫌悪に陥り、意識がはっきりとしてきた。

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