小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「あれからだから…3時間ちょっとか?」

「ああもう、俺の馬鹿野郎」


俺は上半身を起こし、時計を見た。

時計の針は6時半を指している。

もう少し勉強できるな、と思い、ベッドから降りて机に向かおうとすると、蒼に止められる。


「ん?」

「母さんが晩飯食っていけってさ。勉強は夜まで付き合ってやるから、とりあえず休憩しようぜ」

「でも俺ずっと寝てたし…」

「俺が少し疲れたんだよ」


そう言われると、仕方が無い。

俺が寝ている間に蒼はずっと勉強していたのだろう。

俺が勉強を始めると蒼も付き合ってくれるだろうから、とりあえず蒼のために勉強は後回しにすることにした。



蒼とリビングへ行くと、みっちゃんがテーブルに晩ご飯を並べていた。

みっちゃんとは蒼のお母さんのことだ。

俺の母さんが蒼のお母さんをみっちゃんと呼んでいるので、それを聞いていた俺も小さい頃からみっちゃんと呼んでいるのだ。

みっちゃんは蒼のお母さんでありながら、自分のお母さんのようでもあり、お姉さんのような存在でもある。

小さな頃から俺はみっちゃんに可愛がってもらっていた。


「あら直君、もうすぐできるから座って待っててねえ」

「ありがとう、みっちゃん」


俺に気付き、にこにこと笑顔を浮かべながら話しかけてくるみっちゃんに俺も自然と笑顔になる。

みっちゃんの言葉に甘えて、いつも俺がご飯をご馳走になる時に座る椅子に腰を下ろす。

俺に続いて蒼は隣に腰を下ろした。



「はあ、それにしても時間を無駄に過ごした気分だあ」


意識がはっきりとしてから改めて考えると、頭の悪い俺にとって3時間を無駄にしたことはかなり痛かった。


「悪いな、最初は起こそうと思ったんだけど…お前、あんまり寝てないみてえだったから」

「え?」


蒼の言葉に、俺は隣に座る蒼の顔を見た。

俺は蒼に徹夜で勉強したなんて一言も言っていない。


「隈、凄いことになってる。あんま無理すんなよ」

「あ、なるほど…」


それで分かったのか。

朝は眠気のせいで顔を洗った時にまじまじの自分の顔を見なかったから、自分で気付くことはなかった。


「ごめん、なんか気ぃ遣わせて。今日は俊吾と薫もいたし、お前自分の勉強する暇なかったんじゃね?」

「いや、教えてる間に俺も覚えられたし、問題ないよ」


蒼はそう言うが、俺はなんだか申し訳ない気持ちになる。

本当に蒼は優しい。

時に厳しくもあるが、それも結局は蒼なりの優しさであることを知っている。



「おまたせー」


みっちゃんが晩ご飯全てをテーブルに並べたようで、俺の前の椅子に腰を下ろした。


「今日はお父さん遅くなるみたいだから、先に食べましょ」

「ありがとうみっちゃん。うわあ、うまそう」


テーブルには数種類のおかず、サラダ、そして俺の前にご飯と味噌汁。


「俺、みっちゃんのご飯食べるの久しぶりなんだよなー、みっちゃんの作るご飯美味しいから好き」

「まあ、嬉しいじゃないの」


みっちゃんは嬉しそうににこにこと笑う。

本当にみっちゃんの作るご飯は美味しいんだ。

小さい頃はよくご飯にご一緒させてもらっていたけれど、最近ではご飯までご馳走になることはあまりない。


「じゃ、いただきます」

「いただきます」


俺が手を合わせて食べ始めるのに続いて、蒼も手を合わせ、箸を動かし始める。

この後、俺は三人で楽しく会話をしながら、楽しく美味しい晩ご飯を食べた。



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