小説『君の隣で、』
作者:とも()

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結局、今日は蒼の家に泊まることになった。

食事の最中にこの後もしばらく一緒に勉強をするとみっちゃんに話すと、それならばいっそ泊まっていけばいいという話になった。

泊まるのであれば好きな時間まで勉強できるし、とみっちゃんは言ったのだが、さすがにそれは蒼に悪いと思ったので渋っていると、ねえ、いいでしょ蒼?と催促された蒼は、口に食べ物を含んだまま、ん、と短い返事をした。

これでお泊り決定。



まあ、葛城家に泊まるのは久々とはいえ、昔は何度もお世話になっていたので泊まることに抵抗はなかった。

俺は晩ご飯の後一度帰宅し、着替えを取りに行くついでにリビングにいる母さんに泊まることを伝えると、そうーみっちゃんによろしく言っておいてねー迷惑かけちゃ駄目よー、とテレビに視線を向けたまま返事が返ってきた。

母さんにとっても俺が蒼の家に泊まることは慣れっこなのだ。



俺が明日の服やパジャマを準備して蒼の家に戻ると、蒼は風呂から上がったところだった。

蒼からは甘い香りがする。


「父さんまだらしいから、次入れって」

「みっちゃんは先入んなくていいのか?」

「早く勉強できるようにってさ」


こんなところまでみっちゃんの優しさを感じる。

有難う、みっちゃん!



俺はお言葉に甘えて先にお風呂を使わせてもらうことにした。

着替えを持って脱衣所に行き、さっさと服を脱いで風呂場の扉を開く。

今日はサービスとみっちゃんがバニラの香りがする泡風呂にしてくれたのだ。

そのために扉が開くと同時にバニラの匂いと、蒼が使ったのであろうシャンプーの僅かな香りがぶわっと体と取り巻いた。

中に入りさっさとシャワーからお湯を出して頭から浴びると、今日の疲れが一気に取れていく感じがした。

どうなのかと思うほど葛城家の風呂場も使い慣れているので、俺はシャンプーやボディソープを探すこともなく次々と手に取って行く。

早々に洗って湯船に浸かると、温かいお湯とバニラの香りが俺を包み込む。

甘いものが大好きな俺は甘い匂いに満たされて頭の中まで蕩けそうになる。



この後も勉強しなければならない。

あと5分だけこの甘い香りに包まれていようと、小さく心の中で決めた。



「風呂、さんきゅ」

「おう」


パジャマに着替えた俺は蒼の部屋へと入る。

勉強している蒼の向かいに座ると、蒼は俺を見て溜め息を吐いた。


「馬鹿、ちゃんと髪乾かせよ。風邪ひくだろ」


蒼はシャーペンを置いて身を乗り出すと、俺の首に掛かっているタオルを掴んで俺の頭をがつがつ拭き始めた。


「わっ、自分でできるって」

「いいから、じっとしてろ」


最初はタオルを奪い返そうと試みたが、蒼が構わず拭き続けるので任せることにした。

少し強い力で俺の髪を拭く蒼の手が気持ちいい。

今度シャンプーもしてもらいたい、なんて頭の隅で考えた。



拭いている最中、俺が目を閉じていると蒼の言葉が耳に入ってきた。


「あのさ、合コンの事なんだけど…」

「うん」

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