小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「…その、行くことになった」

「マジでか!」


俺は驚いてばっと顔を上げる。

きっと断るであろうと思っていたので話題には出さなかったが、まさか蒼が承諾するとは。

驚いたのか、蒼は一度手の動きを止めたが、すぐに再開された。


「絶対断ると思ってた、蒼そういうの嫌いだろ?」

「あいつしつこくてさ、断り続けてるままだと勉強する時間が無くなると思って。悪いな、付き合わせることになって」

「いや、もとはといえば俺が悪いんだ。蒼に振ったの俺だし、こっちこそごめん」


本当に悪いことをした、と俺は反省した。

蒼が嫌がることはさせたくないと思うのに、この事態を招いたのは俺だ。

俺が下を向いて自己嫌悪に陥っていると、蒼は苦笑いをして拭き終えた俺の髪に指を通しながら俺の頭を撫でる。


「気にすんな。まあたまには気分転換にいいんじゃねえの」

「蒼がそんなこと言うなんてびっくりだ」

「たまにはいいだろ。…じゃ、勉強しようぜ」


俺の髪からゆっくりと手を離す蒼。

蒼が笑っていたので、俺もまあいいか、と思ってしまう。

とりあえず今は勉強に集中しようと思い、俺は机の上で教科書を開いた。



……………



「…よし、そろそろ終わるかあ」


蒼にチェックしてもらった箇所、その他自分なりにまとめたものを一通り覚えることができた。

ぐっと腕を伸ばすと頭だけではなく、体がどれだけ疲れているのかがわかる。

肩や首が痛い。

時計は三時過ぎを示していた。

いい加減に眠らないと、そう思った俺は正面に座る蒼へと視線を移す。


「…蒼?」


右手には辛うじて赤ペンが握られているが、机におでこをつけたまま動かない蒼を見て、どうやら寝ているらしいことがわかった。

ずっと勉強に集中していたので、俺は蒼が眠っていたことに気付かなかった。

それだけ勉強に集中していたということなのだろう、自分を褒めてあげたい。

それにしても、蒼が俺より先にダウンするなんて意外過ぎる。

でも俺は夕方寝ていたし、蒼はずっと勉強していたので、この差は無理もないのかもしれない。


「蒼、そろそろ寝よう」


俺が蒼の肩を何度か揺すると、少しの間をおいてゆっくりと顔を上げた。


「とりあえずベッドに行こう?このままじゃ寝られないし」

「う、ん…」

「ほら」


俺は立ち上がって向かい側へ行き、蒼の腕を引っ張ると、蒼はゆっくりと立ち上がる。

ベッドまで引っ張って行くと、蒼は倒れるようにしてベッドにダイブした。

かなり眠いんだろう。


「蒼?」

「…」


起きているのか起きていないのかよくわからなかった蒼だが、耳を澄ますと静かに寝息を立て始めていた。

俺はどこで寝よう、と数秒考えた後に、俺は蒼がいるベッドに潜り込んだ。

いつもなら床に布団を敷いてそこで寝るのだが、蒼が眠ってしまった今、勝手に布団を取りに行く訳にもいかないし、何しろ俺ももう眠いのだ。

昔は二人で一緒に寝たりしていたので、何も問題ないだろう。

俺は枕元にあったリモコンで部屋の電気を消し、蒼にくっついてから掛け布団を掛けた。


「おやすみ」




朝は蒼の叫び声で起きた。

最初は驚いたが、あまりに蒼が変な声で叫んだので、その後俺は思い出しては笑っていた。

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