小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「夕方から降るって言ってたけど、まさかこんなに早く降るとはなあ」

そう隣で言う蒼は右手に傘を持っていた。

そういえば朝、蒼は傘を持っていた。

どうしてその時俺も傘を持っていかなければと思わなかったんだろう、たぶん晴れていた空のせいだ。


「まあ一緒に入れば問題ないだろ」

「うう…、ごめんな蒼…」

「いいよ、別に」


蒼は傘を開くと、自分の右側を空けてくれる。

やっぱり俺は蒼に頼わなければやっていけないんだな、と少し情けない気持ちになったが、当たり前のように自分の隣を空けてくれる蒼に俺は嬉しくなり、駆け寄って蒼に抱きついた。

うざい、と言ってすぐに体を離されたが。



「あっ」


いつもの帰路、いつも見る家や店。

その中で俺はいつもと違う箇所を見つけた。

それはたまに蒼や友達と寄る喫茶店の扉に貼られていた。


「“新作、マンゴーパフェ”…、うわあ食いてえ」


この喫茶店のパフェはどこの有名店よりも美味しくて、尚且つ隠れた小さなお店なので俺のお気に入りだ。

甘いものが大好きな俺は、この店のパフェを全メニュー制覇している。

それくらいここのパフェを愛しているのだ、新作となれば俺の舌が疼く。


「蒼、寄っていい?」

「はいはい」


俺が目を輝かせながら蒼の方へ向くと、蒼は少し困ったように笑うが了承してくれた。

付き合わせて悪いとは思うが、一度パフェに向いた意識はもう逸らすことができない。

また蒼に我が侭を言ってしまった。

悪いとは思うものの、これからも俺は優しい蒼に甘え続けてしまうんだろうな、と頭の隅で思った。



「うまあい。…はあ、幸せ」

「ふは、大袈裟」


パフェを口に含んでは幸せを口にする俺を見て、蒼は小さく吹き出して面白そうに笑った。

蒼曰く、今にもほっぺが落ちそうな顔をしているらしい。

だって本当にほっぺが落ちそうなんだ、とろけそうな気分なんだ。

そう伝えると蒼はまた笑いながら、自分のコーヒーに口をつけた。

再びパフェを口に運ぼうとした時、俺の鞄からリズム良く振動音が聞こえてきた。


「メールか?」

「ん」


蒼の問いに軽く返事をし、鞄から携帯を取り出す。

パフェを食べながら携帯を見ると、沙希ちゃんからメールが来ていた。

内容はまた蒼に関することだ。

そういえば、沙希ちゃんのことを蒼に話さなければいけなかったのだと、ふとを思い出す。

家に着いてから話そうと思っていたのだが、パフェで幸せに浸っていたためにすっかり忘れてしまっていた。

少し迷ったが、今話してみるか、と思い、俺は口を開いた。


「蒼」

「ん?」

「実はさ、沙希ちゃんが蒼とメールしたいってずっと言ってるんだけど…」

「ああ」


俊吾からも言われたからだろう、蒼は少し不機嫌そうに顔を顰めた。

俺は少し言いにくくなったけど、思い切ってお願いしてみた。


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