「よかったら、メールしてやってくれない?」
「なんで?」
「沙希ちゃん何回も熱心に頼んでくるんだよ。だから…」
「悪いけど、断っといてくれ」
蒼はそう言い放つと、再びコーヒーに口をつける。
少しも考えることなくそう言った蒼に、俺は何故か少しの苛立ちを覚えた。
俺は苛立ちを押さえ込み、笑顔をつくって言葉を続けた。
「でも、さ、沙希ちゃんいい子だったじゃん。ちょっとメールしてあげるくらい、いいじゃんか」
俺がそう言うと蒼は更に顔を顰めた。
拗ねたりすることは、よくある。
でも俺の前でこれほどの不機嫌さを隠すことなく出す蒼はとても珍しかった。
蒼は本気で怒ると怖い、いつもの俺なら怯んでいたと思う。
けれど今は俺も少し苛立っているせいか、そんな蒼を見て更に苛立っていた。
どうしてこんなに苛立っているのか自分でも分からない。
「俺が言うのもあれだけど…沙希ちゃんは蒼のこと本気で好きなんだよ。メールできなくて、落ち込んじゃうくらいお前のこと好きなの。だから…」
「だから何?だからメールするのか?言っとくけど、俺が好きになることは絶対に無いから」
溜め息を吐きながらそう言う蒼を、俺は決していつものように見ることはできなかった。
蒼の言うことはいつも正論で、俺は何の疑いも無く蒼の言うことに間違いはないと思っていた。
けれど今の言葉はどうだ。
面倒くさいから、そう思って適当な言葉を並べているだけではないのか。
「なあ、もう少し沙希ちゃんの気持ちも考えたら?」
気付けば俺は少し声を荒らげていた。
俺がこのように怒りを面に出すことは滅多にない。
だから俺を見て一瞬蒼は驚いた顔をしたが、すぐにさきほどの険しい表情に戻る。
「考えてどうするんだ?好きになる訳がないのに期待するようなことだけするのか?」
「違う、そんなことまで言ってないだろ。ただもう少し気を遣ってやれよ、絶対好きになんないとかそんなこともわかんないし、好きになるって…片思いって、すげえ辛いと思うし」
俺は誰かを本気で好きになったことなんて、ない。
だけどきっと苦しくて、切ないんだってことは分かる。
中学の頃の友達も沢山悩んでいて、俺も相談にのっていたから。
「だから、もう少し考えてから答えを出してやれよ。面倒くさいから嫌だ、じゃなくて…」
「別に面倒くさいからとかじゃねえ」
蒼の言葉に、俺は口から次々と出続けていた言葉を止める。
蒼は面倒くさいから適当な理由を並べているのだと思っていた。
だがそうだとしても俺の苛々は治まらない。
「でも…っ」
「大体、お前には好きだとか片思いだとか軽々しく言ってほしくない。誰も好きになったことなんかないくせに」
俺はこの言葉で怒りが最高潮に達した。
軽々しく?
誰も好きになったことがないくせに?