「蒼に言われたくねえよ!確かに俺は本気で好きになった人なんていない、会いたいとか一緒にいたいとか、心から思った人なんてまだいないよ。でも蒼だって一緒だろ!?分からないからこうやって…」
「分かるから!」
バンッ!と机を叩いて蒼が立ち上がる。
机を叩いた音にも、急に立ち上がった蒼にも、蒼が声を荒らげたことにも、全部に俺は驚いた。
「もう限界だ」
「そ、う…?」
俺はあまりの驚きに今までの怒りを忘れ、ただ蒼を見た。
蒼は俺が今までに見たことがないくらい怒っていた。
けれど…。
「俺と一緒?ふざけるなよ…、俺はずっと…ずっと…」
どうして、泣きそうな顔をしているのだろう。
「お前が、好きなんだ」
「お客様?」
俺達の騒ぎを聞いて、アルバイト店員が来たと同時に、蒼は鞄を荒々しく掴んで店を出た。
「お、お客様!?」
蒼の対応に店員は蒼が出て行った扉と俺を交互に見たが、何も言わない俺にしばらくして黙って戻っていった。
俺は、頭が真っ白になっていた。
どれくらい時間が過ぎたか分からない、ただ長い間俺は何も考えることができなかった。
かなり時間が過ぎて思考能力が回復しても、俺はただ混乱するばかりだった。
蒼が、俺を好き…?
蒼の言った言葉が何度も頭をぐるぐると回る。
正確な判断ができない中でただ一つ理解できたことは、俺の蒼に対する好きと、蒼の俺に対する好きが違うってこと。
でも俺は受け入れられずにいた。
全く理解が、できなかった。
だって蒼は幼なじみで、親友で、ずっとこの関係は変わらないと思っていたから…。
「お客様、閉店の時間です」
気が付けば、外は暗くなっていた。
さすがに、帰ろう。
会計を済ませ、俺は店を出た。
雨は激しさを増していた。
傘は、持っていない。
ぴちゃ、ぴちゃ、と雨の中を歩く。
「そ、う…」
自然と口から零れたのは、幼なじみの、親友の名前。
彼が分からない、何も分からない。
―――馬鹿、何してんだよ。風邪ひくだろ、…入れよ。
そう優しい言葉を掛けてくれる彼は、今隣にはいない。
蒼が、遠い。
そう感じたのは初めてで、胸が苦しくて堪らなかった。