小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「…少し熱があるんじゃない?昨日あんなに濡れてたから」

「大丈夫だよ。悪いけど、今日は残すわ。明日はちゃんと食べるから」

「そう?…無理しちゃ駄目よ」


うん、ありがと、と返事をして、俺は洗面所へ向かう。

母さんの言う通り少し体の調子が悪いような気がするが、俺は蒼に会わなければいけない。

顔を洗うと少し気分がすっきりしたような気がした、だが胸の内はまだもやもやとしている。

とりあえず蒼と話さなければ何も始まらない。

携帯を見ると、約束の時間だ。

俺と蒼は毎朝決まった時間に家を出て一緒に学校へ向かう。

少し緊張する、だが逃げてもどうしようもない。



「行ってきます」


リビングにいる母さんに聞こえるようにそう言うと、いってらっしゃい、と声が返って来た。

スニーカーを履き、外へ出る。

外には蒼がいるはず。


「…あれ…?」


いるはず、なのだが…。

そこに蒼の姿はなかった。

蒼はいつも俺が外に出る頃には、門の前で待ってくれている。

今日は準備が遅れているのだろうか、そう思い俺は隣の蒼の家の呼び鈴を押した。

しばらくすると、開いたドアからみっちゃんが顔を覗かせた。


「あら直君、どうしたの?」

「おはようみっちゃん。あのさ、蒼は?」

「蒼は今日学校で早くに用事があるからって30分前に家を出たけど…。あらやだ、あの子ったら直君に何も言わずに先に行っちゃったの?」


俺はみっちゃんの言葉にすぐに言葉を返すことができなかった。

蒼が先に行った?

先に行くような用事があれば、その度に蒼は必ず俺に一言告げてくれていた。

もしそうでなくても、蒼が何も言わずに行くわけがない。

今まで何年も一緒に過ごしてきた俺は、蒼が律儀な性格であることをよく知っている。



もしや避けられているのだろうか…。

俺の頭にはそのような考えが過ぎったが、俺はそれを無理矢理掻き消し、みっちゃんに笑顔でわかったと答えて学校へと走った。



学校に着くと教室に蒼はいなかった。

机に鞄は置いてある、どこかに行っているに違いない。

俺は蒼を待った、けれどチャイムが鳴るのと同時に蒼が戻って来たので話すことはできなかった。

本当に用事があったのかもしれない、そう俺は心の中で思ったが、その期待は見事に打ち砕かれる。



休み時間になって俺が蒼の元へ行こうとするよりも先に、蒼は教室を出ていった。

移動教室も他の友達とさっさと先へ行ってしまう。



明らかに、避けられていた。



昼休みになり、四人で昼ご飯を食べる時が来た。

さすがに来てくれるだろう、と思った。

けれども俺の考えは甘かったらしい。



「俊吾」

「何?」

「俺用事あるから、今日は三人で食ってくれ」

「そっか、わかった」



また、避けられた。

俺は蒼の方を見る、彼は背を向けて教室を出ようとドアの方へ歩いていた。

その背中が、どこか遠くに見えた。

今話さないと、もう二度と話せないかもしれない。

そんなことはあるはずもないのに、何故かそう思った俺の胸の内に不安が生まれた。

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