小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「蒼」


蒼に聞こえるように少し大きな声で呼ぶ。

絶対に聞こえている。

それなのに、蒼の足は止まらない。


「蒼!」


俺は蒼の元へ行こうと立ち上がった。

その瞬間、激しい頭痛と眩暈が俺を襲う。

それでも蒼の元へ行こうとした俺は足を動かす。

だが三歩ほど歩いたところで俺の足は力が入らなくなり、その足は俺の体を支えきれず、支えを失った体は倒れるしかなかった。

ガタンッ、と音を立て、俺は床に倒れる。

机の角にぶつけたのだろう、右肩が痛い。


「直也!」


倒れた俺に驚き、薫が席を立って駆け寄ってきた。

頭が痛くて、体が熱い。

でも俺は必死だった、くらくらする重い頭を動かすことはできず、目だけで蒼を探す。

蒼の足元が視界に入り、顔を見ようとしたが、そこで俺は意識を手放した。







目を覚ますと、俺は自分の部屋にいた。

目だけを動かし窓を見ると外は暗くなっている。

何故自分はベッドで寝ているのだろう、自分でベッドに入った覚えは無い。

何があったのか思い出そうとぼんやりとする頭を必死で動かし、数秒後、俺は泣き出したい気持ちになった。

蒼に避けられて、それで…。

そこから先は思い出せない、何故なら倒れたからだ。

なんとなく風邪をひいているのだろうということは朝の時点で分かっていた、けれど蒼のことを考えていると体の辛さまで頭がまわらなかったのだ。


「直也」


ふいに自分の名を呼ぶ声が聞こえてドアの方に目を向けると、母さんがいろんな物を乗せたお盆を持って部屋に入ってきた。

母さんは机にお盆を置くと、床に膝をついて俺の顔を覗き込んだ。


「気分はどう、辛い?」

「…結構…」

「びっくりしたのよ、あんたが倒れたって連絡が入った時は」

「へへ…ごめんな」


母さんが少し怒り気味に言うものだから、俺は苦笑いしながら謝る。


「後で蒼君にお礼のメールでも送っておきなさい。あんたを保健室までおぶってくれたのよ」

「…蒼、が……?」

「そうよ。母さんすぐに迎えに行くことができなかったから、本当に助かったのよ。…もう、だから朝言ったじゃない、あんたは…」



母さんは横で何かを言っている、少し怒っているみたいだ。

小言だから聞きたくないわけじゃない、俺は違うことを考えざるを得なかった。

…蒼…。

母さんの口から蒼の名前が出るとは思わなかった。

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