小説『君の隣で、』
作者:とも()

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蒼が俺を保健室までおぶってくれた?

俺のことを避けていたのに、どうして…?



訳が分からなくなって、俺はいよいよ本格的に泣きたくなった。


「水はここに置いておくから、薬もここに置いておくわね。後で熱も測って…」

「…母さん」

「ん、何?」

「…ちょっと、一人にしてほしい…」

「…そうね、一人の方が寝やすいものね。じゃあ母さん下にいるから、何かあったら呼んでちょうだい」


母さんは俺がしんどいから眠りたいのだと思い、気遣って部屋を出て行った。

パタン、とドアが閉まるのと同時に、俺の目からは涙が溢れた。



蒼が分からない。

何もかも分からない。

今の俺の頭の中には、ただ混乱しかない。



数十分泣いた後、俺は風邪の辛さと泣き疲れたのとで眠ってしまった。






カーテンの隙間から強い光が差し込む。

俺が目を覚ます頃には昼を大きくまわっていた。

体からだるさは取れていない、むしろ増したかもしれない。

ベッドの横にある机の上には昨日母さんが置いていった水や薬と、俺が寝ている間に持ってきたのだろう、お粥が置かれていた。

母さんには申し訳ないけれど、食べる気にはなれなかった。

俺は掛け布団を頭まで被ると溜め息を一つ吐く。



寂しい。

そう思った。

病気になれば心細くなる、なんていうが、それだけではないことを俺は分かっていた。



俺が風邪をひいた時、蒼は毎日俺の様子を見に来てくれていた。

何か食べられるものをとゼリーを買って持ってきてくれる蒼は、ベッドの隣に座って学校であったことなどを延々と話してくれるのだ。

風邪が移るから帰った方がいいよ、一応俺は気を遣ってそう言うが、蒼は俺が寂しがっているのを察してか、了承も否定もせず、ただ俺の傍にいてくれた。

いつから始まったのかは忘れた、小学校の頃だったかもしれないし中学の頃かもしれない。

父さんは単身赴任で海外にいるためにほとんど家にはいない、母さんも昼は仕事で家を空けている。

けれど俺が風邪で寝込んでも、蒼が隣にいてくれた。

だから俺は寂しくなかったんだ。



今日は土曜日。

もしかしたら蒼が会いに来てくれるかもしれない。

蒼が俺を避けていたことを忘れたわけではなかった。

けれど気に病んでいたのかもしれない、俺は蒼に縋りたくて仕方が無かった。

どうか来てくれますように、俺はそう願いながら瞳を閉じた。




けれど俺の願いも虚しく、蒼が会いに来てくれることはなかった。

母さんが夜ご飯を持ってきてくれたけど、俺は喉が通らず吐き出してしまい、飲み物を飲むのでやっとだった。

話すのも辛い俺を気遣って母さんは机に持ってきた物を置いて部屋の電気を消し、一階へと降りていった。

物凄く頭が痛い。

ぼうっとするし、体も熱くてだるい。

でも何より、心が苦しかった。

次の日も俺は昼過ぎに目を覚ました。

昨日よりは少し辛さもマシになったような気もするが、まだまだ快調には程遠い。

また母さんは水と薬とご飯を机の上に置くと、俺に一言二言掛けて一階へ降りて行く。

今日は傍にいてほしい、と少し思ったが、恥ずかしくて口にする勇気はなかった。



高校生にもなって情けないとは思うが、寂しさはピークに達していた。

蒼に会いたい。

会って話がしたい。

喫茶店での言葉、学校で見た背中…、今少し気まずい関係になっていることは馬鹿な俺でも分かる。

だけどそんなことを置いておいてでも、俺は蒼に会いたかったのだ。



俺は枕元に置いてある携帯を手探りで探す。

腕を動かすのも辛い。

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