「大体、好きになったことあんのか?」
「うーん…」
蒼の言葉に俺は眉間に皺を寄せる。
正直、好きっていう気持ちがわからないでいる。
友達みんなは、好きっていうのは会いたいとか、ずっと一緒にいたいと思うことだと言うけれど、恐らくそんな気持ちになったことはない。
少なくとも、俺この子好きだ!と自覚したことはない。
「好きじゃなかったんなら毎回そんなにへこむ必要ないだろ」
「いや、ふられるってのはやっぱ辛いもんがあるよ」
未だ蒼の膝に頭を乗せたまま、俺はうんうんと頷く。
「あんま後先考えないでOKしてると、その内女子に嫌われるぜ」
「げっ、それは困る。女子怖えもん」
「だろ?そろそろ落ち着けよ」
俺を睨む女子達を想像しただけで背筋が凍った。
そんな俺の顔が面白かったのか、蒼はぷっと笑う。
「そういやなんで蒼は彼女つくらねえの?モテるのに」
少し疑問に思ったことを蒼に問いかけてみた。
今思えば、蒼に彼女ができたことなんて今まで一度もない。
幼なじみである俺が知らないんだから、絶対にない。
中学を卒業するまで全て同じクラス、そして蒼について同じ高校を受け、合格した今年もまた同じクラス。
ずっと蒼と一緒に過ごしてきた俺だが、思春期である中学あたりからある事実が浮き彫りとなった。
蒼はモテる。
それはもう恐ろしいほどモテる。
中学でぐんぐんと身長が伸びた蒼は、それはもう男から見た俺でも男前だと認めてしまうほどなわけで。
勉強もできる上に運動神経抜群。
中学の時、陸上部だった蒼は数々の大会で素晴らしい成績を収めていた。
大会当日には、蒼のファンクラブとやらに入っている女の子達がそりゃあもう、ギャラリーに集まりに集まっていた。
凄かった、あの光景はむしろ怖かった。
ちなみに蒼が入るからと俺も陸上部に入ったが、そんな風に応援されたことなんて一度もない。
別に僻んでいるわけではない、本当に僻んでいるわけではないぞ。
俺だって少しはモテてたんだ、少し身長が足りなかっただけだ。
高校生になっても蒼はやはり人気がある。
この高校に入学してから初めての秋、この数ヶ月の間に蒼は何回女の子に呼び出されただろうか。
蒼は丁寧に告白を断る、だから女の子達は諦め切れなくて再度アタックするのだ。
蒼ほどではないが、俺も中学を卒業する少し前から一気に身長が伸びたので、人よりはモテるようになった。
それでも蒼の足元にはとても及ばない。
別にこんなことを競い合っているわけじゃないけれど。
蒼には何かオーラがある、いつでもどこでもまわりの目を惹き付けてしまう。
「俺は好きな人と付き合いたいだけだ。好きでもないのに付き合っても楽しくねえと思うし…」
「えっ、何その言い方。好きなやついるのか?」
蒼の言葉が妙に引っ掛かった俺はがばっと起き上がり、蒼に顔をずいっと近づけて聞いた。
蒼は驚いて数回瞬きした後、何かを言おうとして口を開いたが、すぐに閉じる。
その後、不自然に視線を逸らす蒼に俺は首を傾げる。