「どうした?俺、なんか悪いこと聞いちまったか?」
「いや。…別に好きなやつはいねえよ。もし付き合うなら好きな奴がいい、って話だ」
「そういうことか、納得」
蒼の言葉に俺の中で妙に引っ掛かっていたものがあっさりと取れた。
さすが蒼だなあ、と俺は思う。
そういうしっかりとした考えを持っているところがモテる要因の一つでもあるんだろうな、と俺は頭の隅で考えた。
「俺、蒼みたいな人を好きになりてえなあ。頭いいし、しっかりとしてるし、ルックスはいいし、俺の面倒見てくれるし。あっ、でも蒼みたいな女だったらどうなんのかな、俺より身長高いことになるのか?」
それは少し傷付くかも…と俺は眉間に皺を寄せていろいろと思考を巡らせる。
でも蒼みたいな人と付き合いたいと思ったりしているのは本当だ。
俺から見ても蒼は本当に魅力的なのだ。
髪の毛を染めたりして頑張って自分を飾っている俺とは違って、蒼はありのままだ。
しっかりとはしているが実は面倒臭がり屋だったりする蒼。
短所を無理に隠そうとはせずにありのままで振舞う彼は、短所を短所だと感じさせない。
本当に、蒼はかっこいい。
「もし」
俺が頭の中でいろんなこと…というか、蒼のことを考えていると、蒼がふいに口を開いた。
「もし、俺が付き合ってくれって言ったらどうする?」
蒼の言葉に俺は、へ?と間抜けな声を出す。
少し楽しそうな顔をしながら冗談交じりに言う蒼を見てから、俺は頭の中で蒼と付き合っている自分を想像しようとした。
が、
「全然イメージできねえ」
全くと言っていいほど想像することはできなかった。
「だって、蒼は俺の幼なじみで」
そうだ、俺と蒼はずっと一緒に過ごしてきたんだ。
もう家族と同じくらいの存在だって言っても過言ではない。
そんな蒼は俺にとって唯一の幼なじみだ。
「親友で」
俺は蒼に何だって話せる。
家族に話せないことだって、蒼になら何の躊躇もなく話すことができる。
何か辛いことがあればいつだって俺は真っ先に蒼のところへ行くんだ。
蒼は俺にとって誰にも変えられない親友だ。
「第一、男同士だしな」
同性愛者っていうのがいるのは知っている。
でも俺はそういう人間ではない。
きっとこれから好きになるのも女の子だけだろう。
「絶対有り得ないよな」
うん、有り得ない、と再度呟いて、俺は腕を組んで頷いた。
「やっぱそうだよな」
蒼も笑ってそう答える。
「俺らの関係は、きっとこれからも変わらねえよな」
蒼のその言葉に、俺は何の疑いもなく頷いた。
むしろ自信さえあったかもしれない。
だって俺にとって、蒼は特別だから。
嫌いになったり離れたりすることなんて、絶対にない。
この時俺は全く、自分の言葉がどれだけ蒼を苦しめていたのかなんて知りもしなかった。