俺が最後の一口を食べ終えると、蒼は空になったゼリーカップとスプーンを俺の手から取り、机の上に置いて、次はペットボトルと錠剤を手にとった。
「薬飲める?」
「ん…」
俺は一度頷くと、蒼の手から水と薬を受け取って大人しく飲む。
そんな俺を見て蒼は安心したような顔をした。
「これからはちゃんと何か食べろよ」
「うん…ごめん」
「…いや」
謝る俺に対して蒼は否定の言葉を呟くと、俺に横になるようにと肩を軽く押してくる。
俺はそれに従って俺は再び頭を枕へと預けた。
やっぱり、この体制の方が楽だ。
蒼はポケットから自分のハンカチを取り出し、俺の前髪を分けておでこに浮かんだ汗を拭ってくれた。
その間、蒼は何かを考えるような顔をしていたが、意を決したように一度唇を噛み締めると、俺へと視線を合わせた。
「謝るのは俺の方だ。あの時お前が傘を持っていないのを知っていたのに、俺が先に飛び出したから…」
「蒼…」
「…あの時の、話だけど」
俺のおでこからハンカチを離した蒼の手は、そのままベッドの上に置かれる。
ハンカチは強い力で握り締められていた。
「あの時言ったことを今更否定するつもりはないよ。お前が俺の気持ちよりも沙希ちゃんの気持ちを優先したのがすげえ嫌で…つい苛立って、勢いで言っちまったけど…」
「…」
「お前は信じたくないだろうけどな。…ごめん」
「…俺こそ、ごめんな…」
蒼が苦しそうに紡ぐ言葉にどんな言葉を掛けていいのか分からなくて、俺はただ謝ることしかできない。
俺はやはり蒼を苦しめてしまったのだという罪悪感がちくりと胸を刺す。
「あの後帰って冷静になった時、怖くなった。俺の気持ちに応えてほしいなんて思っていない、そんなことまで望んでない。だけど俺の気持ちを否定されるんじゃないかって…。そう考えた時、お前に会うのが怖くなったんだ。だからあんな風に避けたりしちまって…」
本当にごめんな、と言った蒼の声は震えていて、初めて聞いた弱々しい蒼の声に俺は泣きたい気持ちになった。
自分が蒼をこんな風にさせているのだと思うと、自分に酷く苛立った。
「…俺は、お前の気持ちを否定したりはしないよ」
「直也…」
「そりゃあ、びっくりしたけど…。いつから俺のこと、好きだったの?」
自分の口で言うと、何だか恥ずかしい。
俺は居た堪れなくなって視線を逸らすと、少しの間を置いて蒼は口を開いた。
「分からない…」
「…」
「…だけど小さい頃から、俺の後ろをついてくるお前が可愛くて…」
「…」
「…その時からずっと、俺はお前しか見てなかったよ…」
蒼の言葉の一つ一つが、頭の奥へと響く。
俺は蒼の気持ちをきちんと受け止めたつもりでいた。
だけど、蒼の声で、蒼の言葉で聞くことで、蒼が俺を好きだという事実は更に現実味を増していく。