「お前が笑っていてくれるなら、それでいいと思ってたんだ…。俺の気持ちを知らないまま、ずっと笑っていてくれたらって…、だから俺はお前の親友であり続けようと決めた」
だけど、と言って一度言葉を詰まらせた蒼は、前髪をくしゃりと掴んで顔を歪めた。
「高校になってからお前が女関係を持ち始めて…自分の気持ちの限界に気付いた。時には女の話をするお前に酷く苛々する時もあったよ。それにお前は俺といるのが原因で振られたりするし…。だからもうそろそろ、お前の隣にはいられないかなって」
「…そんなこと、考えてたのか…」
「うん…。だから大学進学と同時にお前から自然に離れられたらって、高校の間はなんとかお前の親友でいようって考えてたんだけど…、先に言っちまったな。はは、俺弱いな」
そう言って蒼は小さく笑ったが、その顔があまりにも辛そうで俺の胸は今までにないほど痛んだ。
苦しい、胸が痛い。
けれど蒼はこれ以上の痛みを、切なさを、一人で耐えてきたというのか…。
自分はただへらへら笑って、当然のように蒼の隣にいた。
きっと俺は無意識の内に何度も蒼を傷付けてきたに違いない。
何か言わなければ、そう思って俺が口を開こうとした時だった。
「ごめんな直也、もうお前の親友じゃいられない。お前が俺の気持ちに応えてくれることがないって分かっていても、こうやって伝えても、そう簡単にはこの気持ちは変えられねえみてえだわ」
そう言って蒼は一度俺の髪をくしゃりと撫でると、立ち上がって俺に背を向けた。
「でも俺は、お前には本当に幸せになってほしいって思ってる。だから、次にできた女は大事にしろよ。…じゃあな」
あまりにもあっさりと帰ろうとするので、俺は蒼が逃げているように見えた。
そして蒼の言葉はどこか寂しさを帯びていて、それを感じ取った俺は嫌な胸騒ぎがした。
慌てて上半身を起こすと、急に体を動かしたせいで頭痛が走る。
けれど、そんなことを気にしてはいられない。
ドアノブに手を掛けた蒼の背中に俺は言葉を飛ばす。
「蒼!」
俺の言葉に蒼は返事もしなければ振り向きもしなかったが、その手は止まっていた。
言葉の続きを待ってくれているのであろうと理解した俺は、思ったことを素直に口にした。