「俺達、これで元に戻れるのか…?」
「…」
「また、一緒にいられるよな…?」
俺の言葉に、蒼は何も言葉を返さない。
そんな蒼を見て俺は不安に駆られ、引き止めるような気持ちで慌てて言葉を並べた。
「俺、確かに蒼の気持ちには応えられない。蒼のことは好きだけど、そういう風には考えられないから…。でも俺は蒼の気持ちを否定しないし、ちゃんと理解する努力もする。もう簡単に付き合ったりしないし、これからはちゃんと自分のことは自分で考えるよ」
「…」
「親友じゃなくてもいい。…でも俺にとって蒼は、誰にも変えられない存在なんだ…、だから…、
蒼の隣に、いさせてほしい…」
正直、まだ甘い部分があった。
なんだかんだ言っても、優しい蒼なら俺の我が侭をきいてくれると。
蒼なら、俺の気持ちを第一に考えてくれると。
けれど…。
「ごめん」
頭が、真っ白になる。
蒼のたった一言が、俺達のこれからを示した。
俺は、本当にただの馬鹿だ。
俺と一緒にいること自体が蒼を苦しめることに繋がるのだと、その時の俺は必死過ぎて何も分かっていなかった。
言葉を返さずにいる俺に、蒼は再び口を開く。
「もう、お前とはいられない。…直也が悪いわけじゃない、俺が弱いせいだ…」
「…」
「俺がもっと強かったら、一緒にいられたかもしれないな。…本当に、ごめんな…」
蒼は、謝ってばかりだ。
何も悪くないのに…。
否、…もしかすると、どちらも悪くないのかもしれない。
気持ちは違えど、お互い好きなのに。
それなのに、離れなければならない。
…いや、だから、離れなければならないのだろうか。
気付けば俺の目からは涙が溢れていた。
目元がどんどん熱くなり、それに比例して涙の量は増す。
何とか止めようと瞼を閉じても手で拭っても、構わず涙は溢れ出るばかりだ。
蒼も、泣いていた。
歪む視界の中で見えた蒼は下を向きながら肩を震わせており、時折ずず、と鼻を啜る音が聞こえた。
俺の前でほとんど泣いたことのない蒼が、堪えるように、けれど堪え切れず涙を零している。
そう思うと俺はただただ辛くて、泣いている蒼を見ているのも耐えられなくなって、蒼から視線を逸らしてシーツを握り締めている自分の手を見る。
もう嗚咽も止められない、涙ももちろん止まらない。
お互い何も話さず、視線も合わせることもなく、ただ泣いていた。
数分経った後、カチャリ、とドアが開く音が聞こえる。
蒼が行ってしまう、そう思うものの、引き止めようという気持ちはもう一切起こらない。
もう無理なのだと、俺は悟った。
俺がこれ以上何を言っても蒼の考えは変わらない。
だから俺は視線を蒼に移すこともなく、ただ、泣いた。
「バイバイ」
涙声で蒼はそう言うと、俺の方に振り返ることもなく部屋を出た。
パタン、とドアが閉まる音が聞こえるのと同時に、更に溢れ出る。
頭がぼーっとする。
けれどもう蒼が戻ってこないことを理解している自分がいた。
今はまだ漠然としている、これから時間が経つにつれてこの現実はより一層確かなものになるのだろう。
蒼が出ていったドアを見る。
涙は止まる気配を見せない。
今日は枯れるまで泣いてしまおう、そう思った俺は涙を拭うこともせず、ただずっとドアを見つめていた。