「蒼のお前に対する態度、他の奴に対してと全然違うし、お前にはすげえ優しいし」
「でもそれは、俺と蒼が幼なじみだからじゃ…」
「俺も最初はそう思ってたんだけど、それもなんか違うなあと思って」
俺は薫の言葉にイマイチ納得することができず、うーんと唸るばかり。
「まあ、俺もそれだけで蒼がお前のことを特別に思ってるって思ったわけじゃねえんだけどな」
「…と、いうのは…」
「…蒼さ、たまに切なそうな顔をするんだ」
薫はミルクティーを一口飲む。
俺は黙って彼がコーヒーカップを元の位置に戻すのを待つ。
「…お前が女の話をしてる時や誰かと付き合ってる時とかに、ふいに辛そうな顔してたからさ…。なんでなんだろうって、もしかして蒼にとって、直也は幼なじみ以上の存在なのかなって、そんな考えがふと頭を過ぎったんだ」
薫の言葉に、俺の胸はズキリと痛む。
蒼も言っていた、高校生になってから俺が女と関係を持ち始めて限界を感じたのだと。
俺はそのことにほんの少しも気付くことはできなかった。
だが、薫は気付いていた。
蒼のことならなんでも分かる、俺は自信を持ってそう思っていた自分を殴ってやりたい気持ちになった。
「…お前は、蒼のこと好きじゃないのか?」
「好きだよ、当たり前じゃん」
俺は薫の言葉に即答する。
「違う、俺の言いたいことは…恋愛感情で蒼のことを好きじゃないのかってこと」
薫は俺の言葉を否定し、質問を訂正する。
俺は何故薫がそのようなことを言うのか全く理解できなかった。
「…俺は蒼のことは親友として好きだけど、そんな風に思ったことはない」
「ほんとに?」
「…何が言いたいんだよ」
薫の意図が掴めず、俺は薫に聞き返す。
自分の口から発せられた声は少し不機嫌なように聞こえた。
うーんと薫は唸りながら、独り言もように呟く。
「…本当に好きじゃないのか、それとも自分で気付いていないだけか…」
「…どういうこと?」
「いや、お前も蒼のこと好きだと思ってたんだよな。普段から蒼大好きーって感じだったし、蒼と話さなくなってから元気無さ過ぎだし」
薫の言葉に俺が理解できないでいると、薫は俺の顔をマジマジと見ながらそう言った。
俺が蒼を好き?…いや、無い。
幼なじみとして、親友として蒼のことを大好きだったという事実は認めよう、だが蒼に恋愛感情を抱いていると自覚したことがなければ、それに近いものを感じたことも今までに一度も無い。
だから、薫の言葉に俺はどうもしっくりとはこなかった。