小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「…やっぱさ、お前今まで蒼と一緒にい過ぎて自分の気持ちが分からなくなってんじゃねえの」

「そんなことはさすがに無いと思うけど…」

「だってさ…」


薫が言葉を続けようとしたところで、テーブルの上に置いてあった俺の携帯が鳴り始めた。

鳴っているメロディは父さんか母さんから電話が掛かってきていることを示している。


「ごめん」

「いいよ、でなよ」


俺は薫に一言断りを入れると、携帯を開く。

画面に記されている「父さん」の文字を見て、俺は慌てて通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。


「もしもし」

『直也…久しぶりだな、元気か』

「元気だよ、父さんは?」


俺も元気にしているよ、と携帯を通して聞こえてくる父さんの声。

その声は最後に会った数ヶ月前と何も変わらない。

俺は嬉しくなった、しばらく父さんは仕事が忙しいと聞いていたので、父さんとはずっと電話すらしていない状態だったのだ。

何かを話そう、そう思った時、父さんの方が先に口を開いた。

『今、家にいるのか?』

「ううん、友達と遊んでる」

『そうか。…実は今日帰れることになったんだ、早めに帰って来れるか?』

「えっ、ほんとに?帰る帰る、すぐに帰るよ」


父さんが帰ってくるのはもう少し先だと思っていたのに。

今日父さんに会える。

素晴らしいクリスマスプレゼントだ、ありがとうサンタさん。



その後、俺と父さんは数分言葉を交わし、じゃあ今から新幹線に乗るから、という父さんの一言で電話を切った。

俺が携帯をポケットに入れるのと同時に、薫がにこにこしながら俺に話しかけた。


「やけに上機嫌じゃん」

「ははは、分かる?」

「分かるよ。…どうしたんだ?」

「今日父さんが帰ってくることになったんだ。父さん単身赴任でさ、ほとんど家にいないんだよ」

「そうなんだ、じゃあ早く帰ってやれよ」


薫のにこにことした笑顔と父さんが帰って来るという事実に、今俺の顔は最強に緩んでいると思う。

俺は薫の気遣いに甘えることにして、早く帰ることにした。

目の前にある、アイスがほとんど溶けてソーダと絡み合っているフロートを一気に飲み干す。


「うげっ、お前よくそんな甘いの一気に飲めるな」

「結構いけるぜ。じゃ、今日は俺の奢りな」


伝票と鞄を持って、俺は席から立ち上がる。

じゃあな、また来年、と薫と一言二言交わし、軽く手を振って俺は店を後にした。






駅から家まで徒歩30分。

別に30分間歩くこと自体はなんてこと無い。

ただ今の季節長い道のりを一人で歩くのはあまり楽しいと思えるものではない。

寒い、とにかく寒い。

体が冷え込む上に真冬の夜道は人が少く、少し気味が悪い。

自然と足も速くなるというものだ。

だが今日は違った意味で足取りが軽い、寒さなど気にならない。



歩いている最中、何度か薫との会話が頭に過ぎった。

薫の言ったことを否定した自分、それなのにどうも引っかかるものがある。

かといって肯定すれば納得がいくのかと言われれば、絶対にそうではない。

答えを探そうとして、見つからないと判断し思考を止める、けれど少ししてまた薫の言葉を思い出し、答えを探そうとしてやはり思考を止める。

この繰り返し。



気が付けば家の前まで来ていた。

今は考えても埒が明かない、後でゆっくり考えよう。

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