「父さんさしぶりー!」
「ほんとだなあ。はっはっは、相変わらず甘えただな」
父さんはそう言うとがつがつと俺の頭を撫でる。
少し痛い、だがごつごつとしたこの大きい手が俺は大好きなので、特に抵抗はしない。
「甘えたじゃねえよ」
「高一になって親父に抱きついてるんじゃあ、甘えただと思うが?早く父さんみたいな立派な男になれよ、ははは」
俺が少し体を離して父さんの言葉に否定の意を示すと、父さんは笑いながら俺の背中をバシバシと叩いた。
自分で自分の事を立派な男だと言うのはどうかと思うが…。
まあ、機嫌がいいみたいなので特につっこまないでおく。
俺と父さんがじゃれ合っていると、リビングに通じるドアから母さんが顔を覗かせた。
「お帰りなさい。てかいつまで玄関にいるの、早く上がりなさい」
「ああ、悪い」
「…直也、目痛いんじゃなかったの?あ、まさか手伝うのが面倒くさくなって適当な事言ったんじゃ…」
母さんは俺達二人を呆れ顔で見た後、俺の顔を疑いの眼差しで見つめる。
母さん、久しぶりに父さんが帰ってきたというのに、普段の態度と変わらないのは如何なものかと…。
テーブルには先ほど俺が愛情を込めて切った野菜が入っているシチューと、俺がソファで目の痛さに悶えている間に母さんが作ったであろう野菜スープが並べられていた。
あれから俺達は母さんに催促されて晩ご飯を食べることになった。
久々に父さんを交えた三人での食事。
会話の内容のほとんどは父さんの仕事に関する話だった。
父さんは国内でも有名な大企業に勤務していて、その上部長という地位にいるもんだから、一般の人よりはかなり多めにお給料を貰っているであろうことは俺も何となく分かっていた。
詳しくは知らないが、父さんはファッションに関する仕事に携わっているらしく、ファッションというだけに活動範囲は国内中であることはもちろん、海外各地にもぽんぽんと出張と称して飛んでいく。
俺はその父さんの出張先での出来事を聞くのが楽しかったりする。
海外には自分が知らない世界が沢山あるため、父さんが出張の数を重ねる度に俺は新発見をするのである。
「やべえ、やっぱ楽しいわ、父さんの話」
「そうか?じゃあ次は中国に行った時の話を…」
「あなた」
俺が父さんの出張エピソードにテンションが上がっているのを見て気分を良くしたのか、父さんが他のエピソードを話そうとすると、母さんが父さんの言葉を自らの言葉で遮る。
先ほどまで母さんも一緒に笑っていたのに、母さんの口から発せられた言葉はどこか雰囲気が違っていた。
俺は不思議に思って母さんの方を見た。
父さんは母さんの顔を数秒見た後に、ごほん、と一度咳払いをして、テーブルの上で手を組んだ。
「直也」
父さんへと視線を移す。
父さんの声は母さん同様、先ほどまでのような陽気さは無くなっていて、俺に向けられる視線も数秒前とは打って変わっている。
俺はいきなりの変わり様に少し動揺していると、父さんが重そうに口を開いた。