◆第七話
父さんは次の日、再び家を出た。
あの話をする為だけにわざわざ帰って来たのだと思うと、更に重みが増す。
あれから四日経った。
考えはまとまるどころか、考えたくない、と俺の脳内は拒絶反応を起こし始めていた。
考えれば考えるほど頭の中はぐちゃぐちゃになり、どうしていいか分からなくなる。
もう何も考えたくない、誰かに正しい答えを導き出してほしい。
現実逃避、したいです。
俺がベッドの上で悶々としていると、
―――ピンポーン
玄関のベルが鳴った。
俺は何となく遠くでそれを聞いていた。
―――ピンポーン
またベルが鳴る。
母さん、なんで出ないのかなあ。
と、考えたところで、母さんは仕事でいないことを俺は思い出した。
慌ててベッドから起き上がり、一階まで駆け下りて行く。
「はいはーい、…ってうわあっ」
「お・そ・い」
玄関のドアを開けると、いきなり少し大きな袋が顔に押し付けられた。
柔らかいので特に痛くはなかったが。
俺は訳が分からなかったが、顔に押し付けられた袋を腕に抱えて訪問者の顔を認識した瞬間、思わず笑顔になった。
「真由ちゃん!」
「久しぶり、直也」
俺が名前を口にすると、目の前に立っている少し明るめの髪色の超美人さんは右手を上げてにかっと笑った。
目の前に立っているこの美人さんは、六歳年上の蒼のお姉さんである。
気が強くて男勝りな真由ちゃん、そんな彼女も幼なじみなわけで、そこらへんの男よりかっこいい真由ちゃんに俺は小さい頃憧れていた。
もうどこまでもついて行きますって感じ。
「えっ、なんで?今大学じゃ…、てかこれ何?」
「今は冬季休み。それはお土産、夢の国に行って来たの」
袋を触って軽く感触を確かめると、どうやら中にはぬいぐるみが入っているらしかった。
真由ちゃん、高一の男にぬいぐるみのお土産はどうかと…と言おうと思ったが、嬉しかったので何も言わないでおく。
「で、おばさん達へのお土産はこれ」
真由ちゃんは左手に持っていた袋も俺に渡してくる。
中には包装された四角い箱が入っていた、恐らくクッキーか何かの食べ物だろう。
「ありがとう、真由ちゃんほんと好き!」
「ありがとね、でも可愛い系は好みじゃないから気持ちだけ有り難く…」
「そういう好きじゃないって」
くしゃくしゃと俺の頭を撫でる真由ちゃん。
にかっと笑うその顔を見て、あ、やっぱ蒼と似てる、と頭の片隅で自然と思ってしまう自分に軽く自己嫌悪。
ほんとに蒼、蒼って…馬鹿か俺は。
「直也も休みでしょ、友達と遊ばないの?」
「うーん…どうもそういう気分じゃなくて」
「でも蒼とも遊ばないなんて珍しいじゃん」
俺は真由ちゃんの言葉にどきりと胸が跳ね上がる。
当たり前だが、真由ちゃんは俺と蒼の事情を知らないのだ。
俺はどうごまかそうかと返す言葉を考えたが、それ以前に真由ちゃんには嘘が見抜かれそうなので、とりあえず適当に笑ってみる。