小説『君の隣で、』
作者:とも()

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やっぱり、荷物持ちになった。

年末ということもあり、デパートは沢山の人で溢れ返っていた。

真由ちゃんは服を試着したり雑貨を見たり、目まぐるしくデパートの中を歩いて行く。

俺はひたすら真由ちゃんについて行く、そして一つずつ荷物が増える。


「結構買うんだな」

「もうずっと就活ばっかりで、しばらく買い物する余裕なんてなかったのよ。たぶんまだまだ増えるから覚悟してね」

「…ほどほどにね」


俺は荷物にまみれたこの後の自分を想像して苦笑いを零したが、真由ちゃんが楽しそうなので素直に後について行った。






「ごめんねえ、こんなに持たせちゃって」

「ほんとにな、まさかこんなに買うとは…」


俺の両手には真由ちゃんが購入した物が入っている大量の袋、それだけじゃ収まらず、真由ちゃんの手にも大きな荷物が一つ。

以前クラスの女友達の話を聞いて、女の買い物って凄いなあと漠然と思ったことはあるが、こうやって自分が巻き込まれてみると凄いどころではない。

なんというかもう…嵐に巻き込まれたようだ。


「休憩しよっか」

「えっ、休憩って…この後まだ何か買うのか?」


真由ちゃんの言葉に驚いて思わず荷物を落としそうになる。

これ以上何を買うというのか、そして買った物は誰が持つというのか…、俺はこれ以上何も持つことはできない。


「まあ、この後は気分かな。ちょっと疲れたからとりあえず休もうかと思って」

「どうか気分がのらないことを祈ります」

「そんなこと言わないの。じゃ、ここに入ろっか」


そう言って真由ちゃんは、デパートの中にあるのにしては少し広めのレストランに入った。

俺も後に続くと、男の店員が席へと案内してくれる。

席に行くまでに俺は他の客にちらほらと見られる。

案内をし終えて戻っていく店員も、去り際に一度振り返って俺を見た。

大量の荷物を持たされた男の俺と、気の強そうな美女である真由ちゃん。

傍から見たら俺は尻に敷かれている男に見えるのだろうと思うと、少し悲しい気持ちになった。



とりあえず手に持ったり肩に掛けたりと、全身に纏わりついていた荷物を全て置いて席についた。

両肩を軽くまわすとパキパキと変な音が鳴る。


「重かったー」

「ご苦労。好きなもの、頼んでいいわよ。あたしの奢り」

「やった、俺イチゴパフェね」

「早っ」


笑顔で即答する俺につっこむ真由ちゃん。

実は席まで案内される途中、他の店員がイチゴパフェを運んでいるのを見たんだ。

お盆に乗っていた甘くて美味しそうなイチゴパフェに俺は一目惚れ。



真由ちゃんは手早くぱらぱらとメニューを一通り捲った後、さっさと店員を呼んで注文する。

店員が去った後、真由ちゃんは腕を組んで笑みを浮かべながら俺の目を見た。


「で、蒼とは何があったの?詳しく教えなさいよ」

「直球だなあ」


真由ちゃんは昔から物事を何でも率直に言うことは知っていたが、ここまで率直だとある種の複雑な気持ちが生じ、俺は思わず苦笑いを零す。

…真由ちゃんはどうして楽しそうな顔をしているのだろう。



「てか、何で蒼が…その、俺のことを…」

「好きなことを知ってたかって?そんなの、見てたら分かるに決まってるじゃない。最初は本人も否定していたけど、何回も問い詰めたら諦めて認めたわ」

「…」


真由ちゃんから見ても、蒼の気持ちは明らかだったらしい。

薫も勘付いていたし…、逆に気付かなかった俺って何なのだろう。

以前、クラスの女の子に告白されて、告白されるまでその子の好意に気付かなかったということを俊吾に話すと、「直也は鈍感だ」と言われたことがある。

その女の子の俺に対する気持ちはクラス中の皆が気付くほどあからさまだったらしい。

その時は俊吾の「直也は鈍感だ」という発言を否定したが、今言われると認めざるを得ない。



そして真由ちゃんに何度も何度も問い詰められた蒼…、思わず蒼に同情したい気持ちになった。


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