「一緒に帰らねえ?」
まさか、蒼と一緒に帰るなんて。
断る理由を見つけられなかった、というよりは、特に断る理由がなかった俺は、今蒼と肩を並べて帰路を歩いている。
こうやって再び蒼と帰る日が来るなんて思ってもみなかった。
蒼と距離を置いていた俺だったが、蒼のことを嫌いになったわけではなかったので、こうやって帰れることが嬉しかった。
そして何よりも、蒼から歩み寄ってきてくれたことが嬉しかった。
ただ以前と少し違うのは、前よりも会話が少ないこと。
ぽつりぽつり、と一言二言交わしてはしばらく黙り、また少し言葉を交わして黙る。
沈黙はそれほど不快でもなかったが、少し気まずいような気もする。
前はどのように会話をしていただろうか、俺は今までの自分達をそっと思い返してみた。
以前はその日の出来事やテレビで見たこと、家であったことやほんの些細などうでもいいこと、とにかく何でもかんでも蒼に話していた。
そして蒼は頷いて話を聞いてくれたり、笑いながら言葉を返してくれたり。
今思うと蒼は、いつも俺を受け入れてくれる側だったような気がする。
だから余計に蒼が俺を突き放したことがショックだったのだろうと、今更ながら冷静に考えた。
「…今日の三木先生、怒ってたな」
俺がぽつりと呟くと、蒼が一度俺の方を見た後、再び前を見た。
「ああ、数学の時間の。顔真っ赤にしてたな」
「明日小テストするからな、ってさ、その瞬間クラス中からブーイング」
俺が思い出して吹き出すと、蒼も横で小さく笑う。
先ほどよりも少し会話らしくなってきたかもしれない。
俺は嬉しくなったが、明日の小テストのことを考えて気分はまた少し下降した。
「…ま、俺は受けないからいいけどさ」
明日からはもう、あの学校へは行かない。
そう考えるといつもは嫌だった小テストも恋しくなるというものだ。
俺の言葉を聞いた蒼の顔から笑みがふっと消え、何かを考えているのか、目を細めて前を見つめる。
俺はそんな蒼の横顔を黙って見ていると、蒼の口からぽつりと言葉が零れた。
「…明後日だな…」
蒼の言葉が何を指しているか、俺は瞬時に理解する。
俺が、日本を発つ日。
先生から聞いたからかみっちゃんから聞いたからか、どちらにしても俺がフランスへ発つ日を覚えてくれていたことに俺は少し驚いた。
「…覚えてくれてたんだ」
「馬鹿、当たり前だろ」
蒼が苦笑いを零しながら、俺の眉間を小突く。
少し痛かった、だがこの懐かしい行為に俺はなんだか急に泣きたい気分になった。
明後日、俺の世界は全て変わる。
蒼とこうやって肩を並べて歩くことも、眉間を小突かれることも、髪の毛をくしゃくしゃと撫でられることもない。
今こうやって蒼が近くにいると、自分で選んだ選択肢とはいえ、明後日という日が来てほしくないと強く思う。
まさかまたこうして近くで話すことができるなんて、思ってもみなかったのだ。
「…ごめんな、俺のせいで」
「え?」
蒼が突然申し訳なさそうに謝るので、俺は訳が分からず首を傾げた。