外灯の光りが逆光してはっきりと表情を見ることはできないが、微かに見える蒼の顔はどこか覚悟を決めたような表情に見えた。
「お前のこと、諦めるわ」
蒼は彼特有の低い声で、そう呟いた。
「お前が日本に戻ってくるまでに諦めるよ。そんで、また親友に戻ろう」
蒼の声は吹っ切れたかのように迷いが無い。
ただ、蒼の表情は読み取れなかった。
だから本当にそう思っているのか無理をして言っているのか、俺には分からない。
「少し長い別れになるけど、俺はずっと待ってるから。…親友として」
「蒼…」
望んでいた言葉のはずだった。
なのにどうして…苦しくて、切ないのだろう。
俺は碌に言葉も返せないまま、あの後家へと入って行く蒼を見送った。
その後その場にずっと立っているわけにもいかず、俺は家に入ると自分の部屋へ向かった。
階段を上がりすぐのところにあるドアを開けると、そこには以前よりも物が少なくなった殺風景な部屋。
必要な物はもう向こうへ送った為、今あるのはベッドや他のいくつかの家具と必要ないだろうと判断した雑貨くらいだ。
俺は部屋に入り、後ろでにドアを閉めると、ベッドに腰を下ろした。
蒼は、親友に戻ると言ってくれた。
何年もずっと俺のことを好きだったのだ、悩んだ末に出した答えなのだろう。
俺が望んでいたことだ。
前のような関係に戻りたいって。
親友に戻りたいって。
蒼の隣にいたいって。
それなのに蒼の言葉を聞いた時の俺に嬉しいという感情はほとんど無く、ただ胸が苦しいだけだった。
何故なのかは自分でも分からない。
どうして蒼が俺を諦めると言ったことを、残念に思ってしまったのか。
考えろ、考えろ。