「……あ…」
俺は、薫との会話を思い出す。
一ヶ月前の、クリスマスイブの日。
「…馬鹿だ、俺…」
俺は両手で顔を覆い、項垂れた。
どうして今、気付くのか。
どうして、今更…。
今まではそんなことは絶対にないと思っていた。
蒼は幼なじみで、親友で、そして俺も蒼も男。
けれど自覚してしまった今、絶対などなかったのだと思い知らされる。
どれほど考えが浅はかだったのかと、俺は今までの自分に呆れた。
何を根拠に絶対にないなどと思っていたのだろう。
薫に言われた言葉を、俺はもっと真剣に考えるべきだった。
ずっと一緒にいたいと思うのも、いつだって会いたいと思うのも、ずっと前からたった一人だったのに…。
だが、気付くのが遅すぎた。
もう、彼とはいられないのだ。
俺は明後日、フランスへ行く。
蒼のいない世界で、俺は一から頑張ると決めた。
この選択をとったのは、他でもない俺自身。
そして、蒼もまた親友に戻ると覚悟を決めてくれた。
次に会う時には、今の気持ちを捨てて親友に戻ると。
何年も思い続けた相手を諦めるのは、どんなに辛いことか。
この気持ちはきっと蒼にしか分からないだろう、けれど沢山悩んで苦しんだことくらいは俺にだって分かる。
そうやってやっとの思いで導き出した答えを、俺は無碍にするのか。
…この気持ちは、伝えてはいけない。
二人が笑顔で別れるためにも。
二人が笑顔で再び会うためにも。
これからフランスで過ごす日々が、気付いたばかりのこの想いを忘れさせてくれることを、俺は静かに願った。