小説『君の隣で、』
作者:とも()

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「なあ、その腕どうしたんだよ。ずる剥けじゃん」


半袖のカッターシャツからすらりと伸びている薫の右腕を箸で指す。

その腕は剥けて赤くなっており、結構な面積で瘡蓋ができている。

傷はそれほど深くないが、見ているだけで痛い。


「さっきの二人三脚で、ペアの奴と全然合わなくてこけちまってさあ」

「ペアって、あの図体のでかい脇田か?」

「そうそう」


脇田とはこのクラスで一番体のでかい大男である。

背の高い蒼でも横に並べば可愛く見えるほどだ。

それほどの男だ、俺より少し背の高いくらいの薫では歩幅やら何やらいろいろと合うわけがない。

何故あの図体のでかい脇田が二人三脚なのだろう。

脇田が二人三脚をしているところを想像すると、それはとても滑稽だった。


「それで脇田も道連れになってさ、俺の上に倒れてきて、お陰で先についた右腕はこの通り」


そう言って薫は軽く右腕を上げる。

改めて見ると、薫がどれほど悲惨なこけ方をし、その後に降りかかってきた災難がどれほど大変なものであったか、先ほどよりも容易に想像することができた。

「俺だったら死んでた。よく生きていてくれたな、薫」

「大げさすぎだよ」


俺と同じ想像をしたのか、俊吾が少し青ざめながらそう呟く。

それを見て薫は笑っていたが、俺もよく生きていてくれたとしみじみと思う。



「お前、保健室には行ったのか?手当てしろよ」


ずっと薫の傷を見ながら話を聞いていた蒼が、ふいに口を開く。


「行ったんだけど、先生が休みでさ。勝手に棚あさったところでどうやって手当てしていいのかわからないから、もういいかなあって」


薫の言葉を聞いて蒼が眉間に皴を寄せる。


「馬鹿、そのままにしてたら菌が入るだろ。俺が手当てしてやるから、食べたら俺と一緒に保健室に来いよ」

「いいって、別に大丈夫だし」

「だあめ。お前が大丈夫でも俺が気になんだよ」


そう言った蒼に、わかったよ、と薫の方が折れた。

蒼は面倒くさがりのくせに、面倒見がいいというかなんというか。


「蒼、お母さんみてえ」


俊吾が笑いながらそう言う。

全く同感だ。


「見た目はお父さんだけどな」


そう言った薫に蒼がむっと顔を顰める。

蒼のことだから、お父さんイコール老けている、とでも解釈したのだろう。

そんな蒼の心の内を予測して、俺は一人笑う。

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