小説『君の隣で、』
作者:とも()

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何年も一緒にいる俺だから、分かるのだ。

俺は蒼のことを理解している。



何の根拠もなくそう思っていた俺は、とてもとても浅はかだった。







あれから何度も体育祭の練習をし、俺達は無事に当日を迎えた。

天気にも恵まれた、むしろ暑い、かなり焼けそうだ。

俺は今晩のお風呂を想像して小さな溜め息を吐いた、絶対に肌がヒリヒリと沁みて痛い想いをする。



今俺は蒼と校舎の影で休んでいる。

最初はクラスの応援をしていたのだが、喉が渇き、一度食堂まで飲み物を買いに来ると、またあの暑いグラウンドに戻る気は一気に失せてしまった。

食堂の自販機で買ったアップルジュースを飲みながら白いコンクリートの上に腰を下ろす。

校舎と校舎の間にいるためか、風がよく通り、自分の額や首元を冷やしてくれる。


「涼しい、ずっとここにいてえ」

「同感。今日一人くらい熱中症でぶっ倒れるんじゃねえ?」


俺が発した言葉に苦笑いを零しながら蒼がそう答える。

その言葉にこそ同感であった。

10月の上旬だというのに、真夏に負けないほどの暑さだった。

これも温暖化の影響だろうか、今までそんなことを深く考えたことはなかったが、この異常気象じゃあさすがの俺も地球の将来を懸念する。


「…うう、少し寒いな」


最初こそは涼しかったが、先ほどまでかいていた汗で体が冷えてきた。

汗を拭おうとしたところで、俺は今右手にあるアップルジュースしか持っていないことに気付く。


「あー、やっちまった」

「どうした?」


俺の言葉に首に掛けたタオルで汗を拭っていた蒼がこちらに視線を移す。


「タオル忘れた」

「ああ…俺のでよかったら使うか?」


そう言って蒼が自分の手にあるタオルを俺の方へ差し出した。


「まあ、俺の汗ついてっけど」

「いやいや、気にしねえよ。ありがとな」


俺は特に気にも留めず蒼からタオルを受け取る。

今更汗なんかでどうこう言う仲でもない。



俺は蒼のタオルで首元を拭く。

汗でべたついていたのが少しすっきりしたような気がする。


「…なんで蒼って汗臭くならねえんだ」


蒼の使用済みタオルからはふわふわとしたお日様の匂いと、今拭った自分の汗の臭いしかしない。

中学の頃から思っていたのだが、蒼はどんなに汗を掻いても臭わない。

それは同じ男として羨ましいというか、少し不思議というか…。


「知らねえよ。つうか嗅ぐな、変態」

「酷いわ蒼君」


俺が少し大げさに悲しむふりをすると、きもい、と言いながら蒼は軽く俺の頭を叩く。

その仕返しとばかりに俺は思いっきり蒼に抱きついた。

汗で湿った体操服の感触が少し不快だが、気にしないことにする。


「ちょっ、直也…!?」

「そんな態度をとる蒼君にはお仕置きが必要ですな」

「必要ねえよ!ばか、やめ…っ」


蒼の首に腕をまわし、首元に顔を埋めて思いっきり息を吸う。

変態呼ばわりされたので、逆に思いっきり嗅いでやることで嫌がらせをしてみたのだ。

やっぱり蒼は汗臭くなくて、むしろ蒼独特のいい匂いがした。

俺はこの匂いが好きだ、なんだか安心する。

昔そんなことを言ったら蒼に冷たい視線を送られたので、今言えばまたそうなるか、もしくはまた先ほどと同じように変態だと言われるだろう。


いや、今の状態でも変態と言われそうだ。



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