◆最終話
フランスでの生活は、思っていた程難しいものではなかった。
これからの日々の不安と蒼との別れで俺は塞ぎ込みそうになったが、立ち直らない俺を見て苛々した母さんは激怒し、俺は強制的に腰を上げさせられた。
すぐに気持ちを完全に切り替えられるものではなかったけれど、このままではいけないことは自分でも分かっていた。
俺は気持ちを持ち直し、学校が始まるまでは日本で通っていた高校から出された課題を日々こなし、空いた時間は母さんと街へ出掛けて早く新しい土地に慣れようと努めた。
最初こそは怖かったものの、慣れてくると意外に楽しいもので、日本の生活とのギャップに戸惑いながらも俺なりに楽しく生活をしていた。
学校が始まってからも大きな問題は特に無く、日本人の先生が思っていたよりも多かったので言語に困ることは無かったし、自分の人懐こい性格のお陰で友達も沢山できた。
分からない内容も友達や先生が教えてくれたので、特に大きな支障もなく楽しい日々を過ごしていた。
ただ、いつでも蒼のことが頭に浮かんだ。
どんなに笑っていても、どこか寂しかった。
まるで心にぽっかり穴が開いたかのように、物足りなさを感じていた。
何度も連絡を取ろうと思った。
けれど、その度に俺は思い留まる。
連絡をとって、その後自分はどうするのか。
会いたくなって、蒼に縋って、そしてまた蒼を困らせる。
これでは今までと同じなのだ。
例え自分の想いが蒼と同じものでも、きっとまた彼を傷付けてしまう。
俺は、変わらなければならない。
蒼のためにも、自分のためにも。
様々なことが起こる新しい日々の中で、俺はそんな思いを抱いていた。
そして、瞬く間に時は流れる…。