「…真由とは連絡とってたのかよ」
そう言って、ふい、と視線を逸らす蒼。
また目を合わせてくれないことを残念に思いながらも、彼の小さな嫉妬に気付き、頬が緩む。
それに気付かれぬよう、平常を保って言葉を発した。
「…蒼と連絡をとったら、蒼に甘えてしまいそうで…。蒼とは直接こうやって会いたかったんだ」
「…自分勝手だ」
「ごめんな。…蒼?」
蒼は俺の胸に手を当てると、ぐっと力を入れ、体を離す。
「父さんと母さんは勝手に一人暮らしの部屋を決めたって急に言い出すし、そんで一度部屋を見て来いって鍵を渡してくるし、来てみればお前がいるし…。何なの、グル?意味わかんねえんだけど」
「まあ…グルって言ったらグル?」
「お前、何がしたいの?」
俺を見てくる蒼の目には少しの苛立ちが伺えた。
俺は肝心なことを言うのを忘れていたという事実に気付き、一度咳払いをする。
「蒼」
「なんだよ」
「一緒に暮らそ」
俺の言葉を聞いた蒼は、ただ目を大きくさせて驚く。
「…は?」
「これからここで一緒に住むの。俺、ずっと蒼と一緒にいたいんだ」
重大発表をさらりと言ってしまった俺を、最初は意味が分からない、といった風に見ていた蒼だが、時間が経ってやっと理解したのか、急に頬を赤くしてぱっと顔を背けた。
「馬鹿だろ、お前」
「ははは。うん、馬鹿だよな、俺」
「急に一緒に暮らすなんて言われても困る」
「やっぱそうなるよな…ははは」
でも蒼といたくて、と俺が苦笑いを零しながら言うと、蒼は一度溜め息を吐いてゆっくりと俺の方を見た。
その頬はまだ赤い。
「お前、あれから一切連絡して来なかったし…」
「悪いと思ってる、ごめん」
「…もし俺に彼女ができてたら、お前どうするつもりだったんだよ」
「…考えてなかった。一人でこの広い部屋に住むところだったかな、ははは」
「…ほんと、馬鹿だなお前」
呆れた顔で俺を見ていた蒼だが、少し経った後に急にぷっと吹き出した。
「蒼?」
「…くくっ、お前ほんとに馬鹿…っ」
何が面白いのか、蒼は目に涙を浮かべて笑っている。
俺は何故蒼が急に笑い出したのか分からず、首を傾げていると、人差し指でくいっと涙を拭いながら蒼は再び俺の目を見た。
「ほんとお前は、馬鹿というか…馬鹿正直というか…」
「う、うん…」
「…だから、俺はお前が…」
蒼はそこまで言うと、言葉を詰まらせる。
少し切ない色を帯びた瞳で見てくるものだから、俺はきゅっと胸が締め付けられる。