小説『君の隣で、』
作者:とも()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



一年男子リレーは一年生だけではなく、見ていた他の学年までもが盛り上がっていた。

二走者が他のクラスの走者と体が触れてこけてしまい、俺のクラスのチームは俺にバトンが渡った頃には四位。

足に自信があった俺だが、競い合う相手は体育部ばかり。

俺は一人抜くだけで精一杯だった。



最高潮に盛り上がったのはこの後だ。

俺から蒼へバトンが渡った時点で俺のクラスは三位。

しかも一位との差は、とてもじゃないが埋められないほど大きかった。

さすがの蒼でもダメかと俺は思ったが、蒼にバトンを渡した瞬間、雰囲気が一変したのだ。



蒼が駆け出して数秒、あっという間に二位の走者へと追いついた。

あまりにあっさりと抜いてしまうので俺は驚いたが、久々に本気の蒼の走りを見てすぐにテンションが上がり、トラックの外で応援しているクラスメイト同様叫んで蒼を応援する。

まだまだ一位との差はあったが、目に見て明らかなほど蒼は一位の走者とぐんぐん距離を縮めていた。

中学時代に何度も見た蒼の走り。

見る度に俺はかっこいいと思っていた。

その頃にも劣らぬ速さ、綺麗なフォーム、この走りを再び見ることが出来て俺が興奮しない訳がなかった。



ゴールが近づく。

一位との差もあと僅か。



抜いたか!?



そう思った瞬間、二人はゴールテープを切った。

目では分からぬ微妙な差、蒼は抜いたのか、抜けなかったのか。



黙ってアナウンスを待った。

俺は緊張のあまり、息をしていなかったかもしれない。

『…只今の結果をお知らせします。一位――――』



一位は、俺達のクラスだった。



結果を聞いた瞬間、気が付けば蒼のところまで全力で駆け出していた。

そして、思いっきり蒼に飛びついた。


「うおっ!?」


走り終えたばかりの蒼はもちろん疲れている、それに加えて俺がいきなり飛びついたもんだから、蒼は俺を抱き止めることが出来ずに、二人して土の上に倒れた。

痛かった、けどそんなことはどうでもいいくらい俺は嬉しかった。

それから先生に注意されるまで、俺は蒼に抱きついていた。









「もうマジで最高だった!蒼かっこよすぎ!」


また思い出し、またテンションが上がる。

このような興奮は本当に久しぶりだった。


「大袈裟だって。大体俺だけの力じゃねえし、お前や俊吾も頑張っただろ」


確かに、確かにそうなのだが。

蒼が本当にかっこよすぎたので、俺はかっこいいを連呼するばかり。

あまりにテンションの高い俺に蒼は先ほどから苦笑いを零すばかりだ。


「あの一位だった奴、陸上部だぜ?あんなに圧倒的に蒼が速いんじゃ、また顧問が勧誘に来るんじゃねえの」

「…違いねえ」


入学したばかりの頃は、中学で蒼が収めた成績を事前に調べていた陸上部の顧問が、頻繁に教室に来てはしつこく入部するよう蒼に促していたものだった。

けれど部活には入らずのんびりと高校生活を過ごすと決めていた蒼は、顧問の誘いを全て断っていた。

部活見学の期間が終わってからは勧誘に来ることはなくなったが、今日の走りを見せ付けられた顧問はまたしつこく蒼の元へ通うかもしれない。

熱血そうな先生だったからな。

蒼は先ほどまでとは違った意味の苦笑いをし、溜め息を吐いた。


-9-
Copyright ©とも All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える